ガリは寿司屋の休憩係なのか
Gusha「ガリってさ、寿司屋で一番自由な食べ物だろ」
Kenja「いや、自由ってどういう意味だよ」
Gusha「寿司は注文するだろ。お茶は自分で入れるだろ。でもガリだけ、最初からいる」
Kenja「それは店が用意しているからだよ」
Gusha「しかも食べても怒られない。追加料金もない。あいつだけ待遇が社員旅行なんだよ」
Kenja「社員旅行の待遇はよく分からないけど、ガリは寿司の合間に食べるものだろ」
Gusha「じゃあ寿司と寿司の間に住んでるってこと?」
Kenja「住んでない。口の中をさっぱりさせるためのもの」
Gusha「じゃあガリって、寿司屋の休憩係じゃん」
Kenja「係じゃない。そもそも生姜だぞ」
Gusha「でもさ、マグロ食べて、ガリ食べて、またマグロ食べると、ガリが『はい、次どうぞ』って言ってる感じする」
Kenja「気持ちは分かるけど、ガリに進行役をやらせるなよ」
Gusha「俺、ガリに急かされてたのかもしれない」
Kenja「誰も急かしてない。江戸前寿司の流れをガリが管理してるわけでもない」
Gusha「江戸前って言った瞬間、ガリが急にベテランに見えてきた」
Kenja「お前の想像力が勝手にガリを昇進させてるだけだよ」
Gusha「でも回転寿司だともっと自由だぞ。皿が回ってる横で、ガリも置いてある」
Kenja「回ってないだろ」
Gusha「回ってる寿司を見ながら、回らないガリを食べるんだよ。あれ、ちょっと不思議じゃない?」
Kenja「そこに哲学を見つけるな」
Gusha「しかもガリって、寿司より先に食べてもいい顔してる」
Kenja「まあ、食べてもいいけど」
Gusha「じゃあ開店して一番に入って、ガリだけ食べて帰る人もいる?」
Kenja「それはもう寿司屋に来た目的を説明してほしい」
Gusha「店員さんに『今日はガリだけで』って言ったら?」
Kenja「たぶん困るだろ」
Gusha「ガリ一皿でお会計して」
Kenja「ガリは一皿じゃないだろ。店によって置き方も違う」
Gusha「じゃあ『ガリ一鉢で』」
Kenja「料亭みたいに言うな」

Kenja「実際、ガリには口の中をリセットする役割がある。マグロのあとに食べれば、次の寿司の味を感じやすくなる」
Gusha「リセットボタンじゃん」
Kenja「まあ、近い」
Gusha「じゃあ俺、昨日からガリで人生をリセットしてたわ」
Kenja「人生はリセットできてない」
Gusha「でも、ガリ食べたあとに玉子食べると、ちょっと新しい気持ちになるぞ」
Kenja「それは口の中がさっぱりしただけだ」
Gusha「でも大事だろ。寿司って一個ずつ味が違うから」
Kenja「そう。だからガリは主役ではないけど、次の味に切り替えるためにいる」
Gusha「じゃあガリって、寿司屋で一番『前のことを引きずらない』食べ物なんだな」
Kenja「急にいいことを言うなよ」
Gusha「サーモンのことをいつまでも考えながらエビ食べたら、エビに失礼だろ」
Kenja「そこまで考えて寿司を食べてる人は少ないと思うけどな」
Gusha「でもガリは何も聞かない」
Kenja「何を?」
Gusha「『さっきのマグロ、どうだった?』とか聞かない。黙って次の一口を迎える」
Kenja「ガリに人間関係を持ち込むな」
Gusha「だから俺、ガリがちょっと好きなんだよ」
Kenja「好きなのはいいけど、食べすぎるなよ」
Gusha「なんで?」
Kenja「寿司よりガリが主食みたいになるから」
Gusha「……それはそれで、店の中で一番自由な客になれそうだな」
Kenja「店から見たら、一番困る客かもしれないけど」
Gusha「じゃあ次から、ガリを一枚食べてから寿司を選ぶわ」
Kenja「それだとガリが最初の一品になるぞ」
Gusha「最初からいたんだから、もう仲間だろ」
Kenja「そう言われると、あの小皿がちょっと待ってるようにも見えるな」
Gusha「ほら。やっぱり休憩係だ」
Kenja「……次の寿司、何にする?」
Gusha「ガリに聞いてみる」