箸置きは、箸のためのベッドなのか
Gusha「箸置きってさ、箸のためのベッドだろ」
Kenja「違うだろ。置き場所だよ」
Gusha「でも寝てるじゃん、箸」
Kenja「寝てない。食事中に一時的に置かれているだけだ」
Gusha「じゃあ昼寝か」
Kenja「なんで急に労働環境の話になるんだ」
Gusha「俺、箸置き見るたびに思うんだよ。あいつ、小さい布団みたいだなって」
Kenja「布団には見えないだろ。陶器だったり、木だったり、ガラスだったりする」
Gusha「硬いベッドもあるだろ。ホテルにもあるじゃん」
Kenja「それはベッドじゃなくて床だ」
Gusha「じゃあ箸置きは、箸のための小さい床か」
Kenja「ずいぶん雑な結論だな」
Gusha「でも、箸を直接テーブルに置かないためにあるんだろ?」
Kenja「そう。箸先を浮かせたり、転がらないようにしたり、食卓の所定の位置に置いたりする」
Gusha「つまり箸が『今日はもう働きたくありません』ってなったときに座る場所だ」
Kenja「座ってもいない」
Gusha「じゃあ箸、ずっと立ち仕事か」
Kenja「箸に労働契約を結ばせるな」
Gusha「でも箸置きって、意外と個性あるよな。魚の形とか、葉っぱとか、猫とか」
Kenja「あるな。季節に合わせたものもある」
Gusha「猫の背中に箸を置くの、ちょっと申し訳なくない?」
Kenja「箸置きなんだから問題ないだろ」
Gusha「俺だったら猫の背中に毎回箸を乗せられたら、三日目くらいで『もう自分で持て』って言う」
Kenja「箸置きがしゃべったら怖いよ」
Gusha「でも猫型なら、夜中に『今日も重かった』って言いそうじゃん」
Kenja「言わない」
Gusha「魚型ならもっと嫌だぞ。毎晩、口のところに箸を置かれるんだぞ」
Kenja「そこまで箸置きに感情移入する人は珍しい」

Gusha「でもさ、箸置きって、なくても飯は食えるよな」
Kenja「食える」
Gusha「なのに置いてある」
Kenja「食卓を整える意味があるからな」
Gusha「つまり、必要かどうか聞かれると困るタイプだ」
Kenja「まあ、そういう道具ではある」
Gusha「なくても困らない。でもあると、なんかちゃんとしてる」
Kenja「それは箸置きだけじゃなくて、いろんなものに言えるな」
Gusha「俺の人生も箸置きくらいちゃんとしてほしい」
Kenja「急に規模が大きくなったな」
Gusha「朝起きて、俺の横に人生置きがあったらいいのに」
Kenja「なんだそれ」
Gusha「『本日の人生はこちらに置いてあります』って」
Kenja「Amazonの置き配みたいに言うな」
Gusha「しかも受け取りサインが必要」
Kenja「何を受け取るんだよ」
Gusha「今日」
Kenja「重いな」
Gusha「で、飯食ってる途中で箸を置くとき、箸置きがあるとちょっと落ち着くんだよ」
Kenja「それは分かる。箸をどこに置くか迷わなくて済むからな」
Gusha「箸って、置き場所がないと急に自由人になるよな」
Kenja「どういう意味だ?」
Gusha「皿の上に斜めに寝たり、茶碗に引っかかったり、テーブルの端まで転がったり」
Kenja「確かに、置き方が雑になりやすい」
Gusha「箸置きは、その自由をちょっとだけ止める」
Kenja「そう考えると、ずいぶん小さい道具なのに役割ははっきりしてるな」
Gusha「しかも箸置き自体は、何も食べない」
Kenja「そこに気づくのか」
Gusha「みんなで飯食ってるのに、あいつだけずっと無言で箸を支えてる」
Kenja「まあ、そうだな」
Gusha「魚でも猫でも、ただ黙ってる」
Kenja「それが箸置きだからな」
Gusha「なんか偉いな」
Kenja「急に褒め始めたな」
Gusha「俺だったら途中で『その箸、もう少し右』とか言っちゃう」
Kenja「お前が箸置きだったら落ち着かないだろうな」
Gusha「でも、たまには箸置きの上に箸を置かずに、箸置きだけ眺めてる日があってもいいよな」
Kenja「それはもう食事じゃないだろ」
Gusha「魚の顔だけ見ながら味噌汁飲む」
Kenja「魚は何も答えないぞ」
Gusha「……だからいいんだよ」
Kenja「そういうところだけ妙に核心を突くな」
Gusha「じゃあ今日の箸、どこで休ませる?」
Kenja「箸置きだろ」
Gusha「俺はもう少し端に置いとく」
Kenja「だから、なんで箸置きじゃないんだよ」
Gusha「まだ飯の途中だから。箸を置いたら、もう終わりみたいじゃん」
Kenja「お前、箸置きを『食事終了の合図』だと思ってるのか」