千年前から汗を拭いてる布、ちょっと強すぎる
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Gusha「この手ぬぐい、職歴が長すぎて俺が使うのちょっと気まずい」
Kenja「布に職歴はないだろ」
Gusha「でも千年前から汗を拭いてるんだろ? 俺なんてまだ二十年だぞ」
Kenja「人間と布で勤続年数を競うな」
Gusha「しかも俺は昨日買った。向こうは千年前からいる」
Kenja「そこだけ比べたら、お前が新人なのは確かだな」
Gusha「だろ? 朝からベテランが新人の顔を拭いてる感じがする」
Kenja「誰の顔だよ」
Gusha「俺の顔」
Kenja「自分で言ってるだけじゃないか」
Gusha「手ぬぐい側からしたら、『また新人来たな』って思ってるよ」
Kenja「思ってない。布だ」
Gusha「じゃあ、使うときにちょっと姿勢よくなるのは何なんだよ」
Kenja「お前が勝手に緊張してるだけだ」
Gusha「だって、汗を拭くだけじゃなくて、ずっと昔から手を拭いたり、体を拭いたり、頭に巻いたりしてきたんだろ?」
Kenja「まあ、用途は昔からいろいろあったみたいだな」
Gusha「仕事、多すぎない?」
Kenja「まあ一枚の布としては働く範囲が広い」
Gusha「タオルなら『汗です』『風呂です』くらいなのに、手ぬぐいは『今日は何でもやります』って顔してる」
Kenja「顔はないけどな」
Gusha「俺、昨日から台所にも置いてる」
Kenja「もう十分使ってるじゃないか」
Gusha「手を拭いて、テーブルを拭いて、最後に俺の額を拭いた」
Kenja「最後の一件だけ急に個人的だな」
Gusha「手ぬぐいからしたら、午前中だけで三部署掛け持ちだよ」
Kenja「そんな会社みたいに言うな」
Gusha「しかも乾くの早い」
Kenja「それは手ぬぐいの特徴だな」
Gusha「普通なら『今日はここまでです』ってなるところを、窓辺に置いたらまた戻ってくる」
Kenja「乾いたらまた使えるだけだ」
Gusha「ベテランの再出勤」
Kenja「だから職歴で考えるな」
Gusha「じゃあ、手ぬぐいって履歴書に何て書くんだろ」
Kenja「書かない」
Gusha「職歴、汗拭き。手拭き。入浴。頭部装着」
Kenja「頭部装着って言うな。鉢巻きとかだろ」
Gusha「特技、細長い」
Kenja「それは形状だ」
Gusha「弱点、端っこが切りっぱなし」
Kenja「それも特徴だな」
Gusha「じゃあ結構ちゃんとした履歴書になるじゃん」
Kenja「ならないよ」
Gusha「じゃあ面接してみる?」

Kenja「しない」
Gusha「『あなたを採用した理由は?』」
Kenja「質問する側が逆だろ」
Gusha「『汗を拭けます』『乾きます』『首にも巻けます』『弁当も包めます』」
Kenja「そこまで一気に言われると、だんだん採用したくなってくるな」
Gusha「ほら」
Kenja「いや、そういう意味じゃない」
Gusha「今、ちょっと目が変わったぞ」
Kenja「変わってない」
Gusha「さっきまで『布だ』しか言ってなかったのに」
Kenja「……昔から使われて、今も普通に使えるのは、確かに変な道具ではあるな」
Gusha「ほら」
Kenja「しかも洗えばまた戻ってくる」
Gusha「完全にベテラン社員を評価してる」
Kenja「社員じゃない」
Gusha「じゃあ何だよ」
Kenja「……古株」
Gusha「言った」
Kenja「何が」
Gusha「今、自分から古株って言った」
Kenja「意味としてはそうだろ」
Gusha「じゃあ俺より先輩だ」
Kenja「お前が勝手に後輩になったんだろ」
Gusha「先輩、今日もよろしくお願いします」
Kenja「やめろ」
Gusha「お疲れさまです、先輩」
Kenja「布に挨拶するな」
Gusha「でも、こうやって毎日使ってると、前に使った日のことが少しだけ残ってる感じはするよな」
Kenja「洗えば汗は落ちるけど、布そのものは何度も使われるからな」
Gusha「端っこが少し柔らかくなったり、柄が馴染んだりする」
Kenja「新品のときとは違ってくるな」
Gusha「俺のほうは昨日の疲れを今日まで持ってくるのにな」
Kenja「急に自分だけ布より性能が悪いみたいに言うな」
Gusha「俺も洗濯機に入れたら新品にならないかな」
Kenja「それはただ濡れた人が一人増えるだけだ」
Gusha「じゃあ手ぬぐい、やっぱ強いな」
Kenja「長く使われてきたものには、使い続けたくなる理由があるんだろうな」
Gusha「じゃあ先輩、今日もお願いします」
Kenja「だから俺まで手ぬぐいを先輩扱いする流れにするな」
Gusha「でももう、俺の中では係長くらい」
Kenja「役職まで付けるな」
Gusha「じゃあ部長」
Kenja「昇進が早すぎる」
Gusha「千年勤務だぞ」
Kenja「……それなら履歴書、もういらないな」
Gusha「なんで?」
Kenja「履歴書を書く側が、こっちになる」
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