その袋、なんでまだ捨ててないの?
Gusha「引き出し開けたらさ」
Kenja「うん」
Gusha「紙袋が二十枚出てきた」
Kenja「捨てなさい」
Gusha「でも、いい紙袋なんだよ」
Kenja「全員そう言う」
Gusha「持ち手が丈夫で」
Kenja「そう」
Gusha「なんか高そうで」
Kenja「そう」
Gusha「未来がある」
Kenja「紙袋に?」
Gusha「あるだろ。急に誰かに何か渡す日とか」
Kenja「その未来、十年くらい来てないだろ」
Gusha「来るかもしれないじゃん」
Kenja「その理屈なら段ボールも保存だな」
Gusha「段ボールは虫が来そうだから捨てる」
Kenja「判断基準が雑なんだよ」
Gusha「でもさ。紙袋って捨てる瞬間ちょっと罪悪感ない?」
Kenja「ない」
Gusha「本当に?」
Kenja「ほぼない」
Gusha「今『ほぼ』って言ったな」
Kenja「たまにあるけど」
Gusha「あるじゃん」
Kenja「デザインが妙に良かったりすると少し迷うことはある」
Gusha「ほら」
Kenja「でも使わない」
Gusha「使うかどうかじゃないんだよ」
Kenja「嫌な予感しかしない」
Gusha「紙袋って、その店で買った日の記憶も入ってるだろ」
Kenja「記憶は入ってない」
Gusha「入ってる気がする」
Kenja「気のせいだ」
Gusha「旅行先の雑貨屋の袋とか」
Kenja「まあ」
Gusha「限定のお菓子買った時の袋とか」
Kenja「まあまあ」
Gusha「見ると『ああ、あの日か』ってなる」
Kenja「それは少し分かる」
Gusha「だから捨てられない」
Kenja「それは紙袋じゃなくて思い出だろ」
Gusha「思い出って、だいたい紙袋とかレシートとか変なところに住んでる」
Kenja「名言みたいに言うな」

Gusha「この前整理したんだよ」
Kenja「えらい」
Gusha「三十枚あった」
Kenja「多いな」
Gusha「十枚まで減らした」
Kenja「頑張ったな」
Gusha「でも翌週二枚増えた」
Kenja「意味がない」
Gusha「紙袋って増えるスピードの方が速いんだよ」
Kenja「雑草みたいに言うな」
Gusha「しかも、たまに本当に使う」
Kenja「年に一回くらいはな」
Gusha「その一回が来るとさ」
Kenja「うん」
Gusha「『取っといて良かった!』ってなる」
Kenja「その成功体験が厄介なんだ」
Gusha「百回の放置を、一回の成功で正当化できる」
Kenja「人間の悪いところが凝縮されてるな」
Gusha「だから紙袋は減らない」
Kenja「でも、全部捨てるのも違う気はしてきた」
Gusha「おっ」
Kenja「実用品として残す数は決めた方がいいと思うが」
Gusha「うん」
Kenja「それとは別に、妙に気に入っているものまで合理性だけで処分する必要はないのかもしれない」
Gusha「そうそう」
Kenja「どうせ大した場所も取らないし」
Gusha「そうそうそう」
Kenja「ただし二十枚はいらない」
Gusha「十九枚なら?」
Kenja「変わらない」
Gusha「十八枚」
Kenja「誤差だ」
Gusha「じゃあ十五枚」
Kenja「交渉するな」
Gusha「なんか今、紙袋側の人間になってない?」
Kenja「なってない」
Gusha「本当に?」
Kenja「ただ」
Gusha「ただ?」
Kenja「帰ったら少し引き出しを確認しようとは思った」
Gusha「何枚あるんだろうな」
Kenja「数えたくないな」
Gusha「未来が詰まってるかもしれないぞ」
Kenja「その言い方は嫌なんだが」
Gusha「捨てる?」
Kenja「……見てから決める」
気づいたら、増えてる シリーズ
- 引き出しが閉まらない理由
- これ、いつの間にか家に増えてる
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- カバンの奥で、たまに人生が開く
- 消したはずなのに、まだ会員だった
- 財布の中で引退しない人たち
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