消したはずなのに、まだ会員だった
Gusha「この前、財布を軽くしたんだよ」
Kenja「いいことじゃないか」
Gusha「ポイントカード全部捨てた」
Kenja「極端だな」
Gusha「もうスッキリ。俺は自由になった」
Kenja「その顔は自由になってないな」
Gusha「昨日、アプリの整理してたら会員証が23個出てきた」
Kenja「カードが電子化しただけじゃないか」
Gusha「しかも半分くらい何の店か思い出せない」
Kenja「それは整理できてない」
Gusha「でも不思議なんだよ。入れた時は全部必要だった気がする」
Kenja「その時は必要だったんだろう」
Gusha「初回クーポンとかあるじゃん」
Kenja「あるな」
Gusha「期間限定ポイントとかあるじゃん」
Kenja「あるな」
Gusha「無料登録でお得とか言うじゃん」
Kenja「言うな」
Gusha「気づいたらスマホの中に商店街ができてた」
Kenja「ずいぶん近代化された商店街だな」
Gusha「しかも全部の店が『久しぶりです』って通知してくる」
Kenja「営業熱心だな」
Gusha「いや、ちょっと怖いんだよ。俺が忘れてても向こうは覚えてる」
Kenja「会員登録だから当然だ」
Gusha「たまに『お誕生日おめでとうございます』って来る」
Kenja「それも当然だ」
Gusha「親戚より連絡くれる」
Kenja「親戚と比べるな」

Gusha「でもさ、本当に使うのなんて数個なんだよ」
Kenja「なら消せばいい」
Gusha「それができない」
Kenja「なぜだ」
Gusha「また行くかもしれないから」
Kenja「典型的なやつだな」
Gusha「一年前に一回だけ行ったパン屋も残ってる」
Kenja「もう行ってないじゃないか」
Gusha「でもパンは好きだから」
Kenja「理由が広すぎる」
Gusha「あと温泉施設」
Kenja「最後に行ったのは?」
Gusha「覚えてない」
Kenja「消していいだろ」
Gusha「でも人間、急に温泉に目覚める可能性あるじゃん」
Kenja「その理屈なら何も消せない」
Gusha「実際そうなんだよ」
Kenja「だから増えるのか」
Gusha「なんかさ、アプリってモノじゃないのに捨てにくくない?」
Kenja「それは少し分かる」
Gusha「場所取らないから罪悪感が薄いんだよ」
Kenja「確かに本棚みたいに圧迫してこない」
Gusha「だから増えてることにも気づかない」
Kenja「見えない収納みたいなものか」
Gusha「そう。見えない物置」
Kenja「それは少し嫌だな」
Gusha「しかもたまに開けると、昔よく行った店とか出てくる」
Kenja「懐かしくなることはある」
Gusha「閉店した店のアプリまで残ってた」
Kenja「それはもう記念品だな」
Gusha「消そうとして指が止まった」
Kenja「なぜだ」
Gusha「なんか、その頃の自分まで消える気がして」
Kenja「大げさだと思うが……少し分かる気もする」
Gusha「だろ?」
Kenja「昔通った店や、よく出かけていた時期の記録みたいなものだからな」
Gusha「俺のスマホ、思い出アルバムだった」
Kenja「整理不足を美化するな」
Gusha「じゃあKenjaは全部きれいに消せるの?」
Kenja「……今確認したら、二年前のカフェのアプリが残っていた」
Gusha「行ってる?」
Kenja「行ってない」
Gusha「消す?」
Kenja「いや、あの店のプリンは良かったんだ」
Gusha「急に温泉に目覚める人と同じこと言ってるぞ」
Kenja「そう言われると困るな」
Gusha「ようこそ商店街へ」
Kenja「まずはその23個を減らしてから言え」
気づいたら、増えてる シリーズ
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