未来の自分は、だいたい忙しい
Gusha「『あとで読む』ってさ、読まないための冷凍庫だよな」
Kenja「いきなり失礼だな。読むために保存してるんだろ」
Gusha「いや、気持ちは読んでるんだよ」
Kenja「気持ちは読んでる?」
Gusha「記事を見つけた瞬間がピークなの。『これは絶対読む』って思った時点で、もう半分読んだ気になってる」
Kenja「それは読んでない」
Gusha「でも満足感あるんだよ。棚に本を置いた時みたいな」
Kenja「本棚じゃなくて、ブラウザの保存リストだろ」
Gusha「同じだよ。未来の自分に仕事を押し付けてる」
Kenja「まあ、それは少し分かる」
Gusha「しかも未来の自分は、今の自分より暇だと思ってる」
Kenja「実際は逆なんだけどな」
Gusha「昨日も見たんだよ。『あとで読む』に二百件くらい入ってた」
Kenja「そんなに?」
Gusha「知らない人のインタビューとか、海外の記事とか、『睡眠の質を上げる方法』とか」
Kenja「読んだのは?」
Gusha「ゼロ」
Kenja「胸を張るな」
Gusha「でも消せないんだよな」
Kenja「なぜ?」
Gusha「その記事を消した瞬間、自分が少し賢くなる可能性も消える気がする」
Kenja「可能性を保存してるのか」
Gusha「そうそう。読んでない記事じゃないんだよ。未来の成長の種なんだよ」
Kenja「言い方は立派だな」

Gusha「でも不思議なんだよな。本当に必要な情報って、だいたい読み返さない」
Kenja「どういうこと?」
Gusha「例えばカレー作る時のレシピとか」
Kenja「ああ」
Gusha「必要な日に探して、その場で使う」
Kenja「確かに」
Gusha「保存したまま一年寝かせるのは、だいたい人生を変えそうな記事」
Kenja「そして変わらない」
Gusha「変わらない」
Kenja「声が小さいな」
Gusha「だって現実だから」
Kenja「でも、人は情報そのものより、『知ろうとしている自分』を大事にしてるのかもしれないな」
Gusha「おお」
Kenja「語学の記事を保存する人は、英語ができる自分を少し信じてる。筋トレの記事を保存する人は、運動する自分を信じてる」
Gusha「じゃあ俺の保存リスト、希望の博物館じゃん」
Kenja「展示品は未開封だけどな」
Gusha「たまに見返すと面白いぞ。三年前の俺が急に陶芸を始めようとしてたりする」
Kenja「何があったんだ」
Gusha「知らん。たぶん夜だった」
Kenja「その説明でだいたい納得できる」
Gusha「だから最近は、読まない記事を消すんじゃなくて、保存した理由を見るようにしてる」
Kenja「理由?」
Gusha「『知りたい』のか、『なりたい』のか」
Kenja「それは結構違うな」
Gusha「知りたいなら今読む。なりたいだけなら、たぶん記事じゃなくて行動が必要」
Kenja「珍しく整理されてるな」
Gusha「俺だって年に数回は整理される」
Kenja「頻度が少ない」
Gusha「でもさ」
Kenja「うん」
Gusha「それでも『あとで読む』は消せないんだよ」
Kenja「結局そこか」
Gusha「だって新しい記事を見つけると押したくなるんだもん」
Kenja「また未来の自分に渡すのか」
Gusha「うん。あいつ意外と頑張るかもしれないし」
Kenja「今までの実績を見る限り怪しいけどな」
Gusha「じゃあ百件に一件くらい読んでるかも」
Kenja「その一件のために九十九件保存してるのか」
Gusha「そう考えると効率悪いな」
Kenja「かなりな」
Gusha「でも、たまに本当に読むんだよ」
Kenja「まあ、それも分かる」
Gusha「だから今日も保存する」
Kenja「読む気は?」
Gusha「未来の俺に聞いてくれ」