「廃盤です」と言われた瞬間に好きになる
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Gusha「この前さ、ドラッグストアで歯ブラシ買おうとしたのよ」
Kenja「普通の入りだな」
Gusha「そしたら俺がずっと使ってたやつ、棚ごとなくなってて」
Kenja「廃盤か」
Gusha「もう立ち尽くしたよね。歯ブラシ売り場で」
Kenja「そんなショック受ける?」
Gusha「いや、あれ絶妙だったんだって。毛が“やる気ない感じ”で」
Kenja「褒め方おかしいな」
Gusha「最近の歯ブラシって全部“磨いてます!”って圧が強いのよ。あいつだけ、“今日はこのへんでいいっすよ”って空気だった」
Kenja「歯ブラシに人格を見出すな」
Gusha「でも、そういうのあるだろ? 使ってるうちに、生活に馴染みすぎて存在忘れてるやつ」
Kenja「まあ、あるかもね。なくなった瞬間に困るやつ」
Gusha「そう! で、代わり探したんだけど、全部ちょっと違うの。硬いとか、持ち手が未来すぎるとか」
Kenja「未来すぎる持ち手?」
Gusha「変形してんのよ。歯磨きじゃなくて操縦しそうになる」
Kenja「知らんよ」

Gusha「でさ、不思議なんだけど、売ってる時はそんな好きって思ってなかったの」
Kenja「なくなってから気づくタイプね」
Gusha「元カレみたいに言うな」
Kenja「言ってない」
Gusha「でも実際、“あれでよかったんだな…”って後から来るんだよ。ノートとかTシャツもそうだけど」
Kenja「慣れって強いからね。人って変化より継続のほうが安心するし」
Gusha「なのに世の中、“新発売!”ばっかじゃん」
Kenja「企業側は新しくしないと目立てないから」
Gusha「俺もう“定番!”ってシールの方が興奮するもん」
Kenja「年寄りのスーパーの買い方なんよ」
Gusha「“30年変わらぬ味”とか見ると泣きそうになる」
Kenja「そこまで?」
Gusha「だって30年ってすごいぞ? 俺なんか昨日ハマったYouTube今日もう飽きてるのに」
Kenja「比較対象が軽い」
Gusha「続いてるってだけで信頼あるもんな。逆に、すぐ消えるやつって、ちょっと幻感あるけど」
Kenja「限定感は出るよね」
Gusha「そうなのよ。“もう手に入らない”って言われた瞬間、急にキラキラし始める」
Kenja「人間、失うと価値を感じやすいから」
Gusha「怖いよな。俺、コンビニの期間限定アイスにも毎回やられてる」
Kenja「メーカーの思うツボ」
Gusha「でもさ、ちょっと腹立つんだよ。“今しかない!”って言われると」
Kenja「踊らされてる感じする?」
Gusha「する。でも買う」
Kenja「買うんかい」
Gusha「で、気づいたんだけど、俺たぶん“物”が好きなんじゃなくて、“ずっとそこにいてくれる感じ”が好きなんだわ」
Kenja「……あー」
Gusha「なんか、帰ったらいつもの場所にあるとか。そういう安心」
Kenja「それはちょっと分かるかも。お気に入りって、性能だけじゃないもんね」
Gusha「そう! 性能だけなら最新のでいいはずなのに、“あいつじゃない感”あるのよ」
Kenja「あるね。“代替可能だけど代替できない”みたいな」
Gusha「おっ、今日ちょっと詩人じゃん」
Kenja「うるさい」

Gusha「だから最近、“売れてる”より“残ってる”を見ちゃう」
Kenja「それは面白い視点だな」
Gusha「ずっと棚にいるやつ、なんか信用できるもん。“こいつ、生き残ってんな…”って」
Kenja「サバイバーみたいに言うな」
Gusha「逆に最新商品って、ちょっとテンション高すぎて疲れる時ある」
Kenja「まあ、“革命!”とか書いてあるしね」
Gusha「歯ブラシに革命いらんのよ。静かに磨かせてくれ」
Kenja「ははは」
Gusha「でも、こうやって文句言ってても、また新しいの探しちゃうんだろうな」
Kenja「結局、探す時間も含めて楽しんでるんじゃない?」
Gusha「……かもな。宝探しっぽいし」
Kenja「なくなるから探すし、探したから愛着も湧くのかも」
Gusha「そう考えると、廃盤ってムカつくけど、ちょっとズルい演出だな」
Kenja「認めるんだ」
Gusha「いや、でも歯ブラシだけは戻してほしい」
Kenja「そこはまだ未練あるんだ」
Gusha「当たり前だろ。“今日はこのへんでいいっすよ”って毛先、他にいないんだから」
ちいさな道具学 シリーズ
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