What is the wet towel wiping before your hands?

おしぼりは、手より先に何を拭いているのか

Gusha「おしぼりって、手を拭く前に心を拭いてるよな」

Kenja「急に何を言ってるんだ。おしぼりは手を拭くものだろ」

Gusha「でも店に入って、あれが出てくると安心するじゃん。『あ、ここまで来た』って」

Kenja「それは店で出されるからだろ。心を拭いてるわけじゃない」

Gusha「じゃあなんで、料理より先に出てくるんだよ。唐揚げより先に心を落ち着かせに来てるじゃん」

Kenja「順番に意味を持たせすぎだ。おしぼりは食事の前に手をきれいにするためのものだよ」

Gusha「でも俺、手を拭く前に一回おしぼりの匂いかぐぞ」

Kenja「それは手をきれいにする工程に入ってない」

Gusha「開いた瞬間の『おしぼり来た!』って感じが好きなんだよ」

Kenja「分からなくはないけどな。特に居酒屋で、冷たいおしぼりが出てくると妙にうれしい」

At a table in a Japanese izakaya, individual white cloth hand towels (*oshibori*) are set out, though hardly any food has been served yet. In the foreground, one can see a transparent or white wrapper containing a chilled hand towel, while a glass of water and a small plate are visible further back. The composition reflects a natural line of sight across the table, with no people in the frame. The interior reflects the style of a typical Japanese izakaya, avoiding an overly upscale atmosphere.

Gusha「ほら。お前も心を拭かれてる」

Kenja「拭かれてない。気分がよくなっただけだ」

Gusha「それを心を拭くって言うんだよ」

Kenja「言葉を勝手に広げるな」

Gusha「じゃあ逆に聞くけど、おしぼりってどこまで拭いていいんだ?」

Kenja「基本は手だろ」

Gusha「顔は?」

Kenja「……まあ、昔から顔を拭く人はいるな」

Gusha「首は?」

Kenja「状況による」

Gusha「腕は?」

Kenja「それはもう、だいぶおしぼりを信用してるな」

Gusha「テーブルは?」

Kenja「やめろ」

Gusha「眼鏡は?」

Kenja「それもやめたほうがいい」

Gusha「靴は?」

Kenja「おしぼりとの関係を一度終わらせよう」

Gusha「じゃあ、おしぼり側からしたら『今日は手だけでお願いします』って思ってるのかな」

Kenja「おしぼりに意思を持たせるな」

Gusha「でもさ、俺らっておしぼりを受け取ると、急にちょっとだけ丁寧になるじゃん」

Kenja「それはあるかもしれないな」

Gusha「普段なら自分の手を見て『まあ、これくらいなら』って済ませるのに、おしぼりが来た瞬間、『せっかくだからちゃんと拭こう』になる」

Kenja「無料で出される小さな道具なのに、妙な区切りを作るんだよな」

Gusha「そう。おしぼりは食事の開始ボタンなんだよ」

Kenja「また大げさだな」

Gusha「だって、おしぼりを開くまではまだ家の続きなんだよ。開いた瞬間から店の人になる」

Kenja「店の人にはならないだろ」

Gusha「『ありがとうございます』って言うだろ」

Kenja「それは言う」

Gusha「ほら、もう店の人だ」

Kenja「客だよ」

Gusha「でも、昔の俺ならおしぼりで手を拭いたあと、たぶんそのまま人生も拭いてた」

Kenja「どういう疲れ方だよ」

Gusha「一日の失敗とか、メールの返信とか、買い忘れとか」

Kenja「おしぼり一枚に背負わせる量じゃないな」

Gusha「でも、あの白い布を広げると、一回だけ全部どうでもよくなるんだよ」

Kenja「……それは少し分かる」

Gusha「だろ?」

Kenja「ただし、心を拭いているんじゃなくて、手を拭いたことで食事に集中できるだけだと思う」

Gusha「じゃあ、心は副産物か」

Kenja「そういうことになる」

Gusha「副産物にしては、ずいぶん丁寧に折られてるけどな」

Kenja「そこまで考えるか?」

Gusha「旅館のおしぼりなんか、俺には小さい布団に見えるぞ」

Kenja「布団?」

Gusha「手を寝かせるための」

Kenja「もうおしぼりを家具にするな」

Gusha「しかも、使い終わったらちゃんと畳みたくなる」

Kenja「それも人によるだろ」

Gusha「俺、あれ毎回悩むんだよ。丸めるのか、畳むのか、そのまま置くのか」

Kenja「店によっても違うし、そこまで決まった作法じゃない」

Gusha「でも、ぐしゃぐしゃにして置くと、なんか申し訳ない」

Kenja「分かる気はする」

Gusha「おしぼりに『今日もありがとうございました』って言われてる気がする」

Kenja「逆だろ。使った側がお礼を言う立場だ」

Gusha「じゃあ最後に心を拭かれてるの、俺じゃなくておしぼりかもしれないな」

Kenja「……それはちょっと面白いな」

Gusha「だろ。毎回、俺たちは一枚のおしぼりを使って、手をきれいにして、ちょっとだけ姿勢を正して、最後には何事もなかったみたいに置いて帰る」

Kenja「そう考えると、ずいぶん短い仕事だな」

Gusha「でも、次の人の前にはまた新しい一枚が出てくる」

Kenja「まあ、そうだな」

Gusha「……次のおしぼりも、ちゃんと俺の心を狙ってるのかもしれない」

Kenja「だから手だって」

Gusha「そう言い切れる?」

Kenja「……今日は、顔まで拭いてみるか」

Gusha「それ、もう心を拭かれてる人の言い方だぞ」

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