Karaoke history: the lives of strangers.

カラオケ履歴、知らない人の人生

Gusha「カラオケの履歴って、前の人の人生の予告編だよな」

Kenja「違う。歌った曲の記録だよ」

Gusha「でも、最初に失恋っぽい歌があって、その次に急にテンション高い歌が入ってたら、何かあっただろ」

Kenja「何もなくても、その組み合わせになることはある」

Gusha「いや、順番が大事なんだよ。しっとりした歌のあとに、急に全力で叫ぶ歌だぞ」

Kenja「単純に気分が変わっただけかもしれない」

Gusha「それを『気分が変わった』で終わらせるのが素人なんだよ」

Kenja「何の素人だよ」

Gusha「履歴探偵」

Kenja「そんな職業ない」

Gusha「この前、履歴見てたら、最初に懐かしい歌、次に新しい歌、そのあと昔のアニメの歌が入ってた」

Kenja「幅が広いだけだな」

Gusha「違う。過去、現在、過去だ」

Kenja「時間旅行みたいに言うな」

Gusha「たぶん、現在に耐えられなくなって過去に戻った」

Kenja「そこまで深読みするな」

Gusha「じゃあ、同じ歌手の歌が何曲も続いてたら?」

Kenja「その歌手が好きなんだろ」

Gusha「一途」

Kenja「好きなだけだ」

Gusha「同じジャンルがずっと続いてたら?」

Kenja「そのジャンルが好き」

Gusha「頑固」

Kenja「好きなだけだ」

Gusha「いろんなジャンルが交互に入ってたら?」

Kenja「好みが幅広い」

Gusha「落ち着きがない」

Kenja「全部悪い方向に解釈するな」

Gusha「じゃあ、歌いやすい曲ばっかりだったら?」

Kenja「歌いやすい曲を選んだ」

Gusha「現実的」

Kenja「それはいいんだな」

Gusha「途中から急に難しい曲が一曲だけ入ってたら?」

Kenja「挑戦したんだろ」

Gusha「見栄」

Kenja「お前は他人を何だと思ってるんだ」

Gusha「履歴」

Kenja「人だよ」

A private room in a typical Japanese karaoke box. A table with drinks sits in the foreground, while a touchscreen song-selection terminal is placed in the center. The terminal's screen displays a "Song Selection History," listing about ten songs from various eras and genres in a vertical column. A woman is peering intently at the screen, deep in thought, while a man beside her looks on with an expression of exasperation.

Gusha「でも履歴って、本人が帰ったあとに残るだろ」

Kenja「まあ、そうだな」

Gusha「そこが面白いんだよ。本人はいないのに、選んだ歌だけ残ってる」

Kenja「確かに、そう考えると少し不思議ではある」

Gusha「しかも、次に入った人がそれを見る」

Kenja「見る人はいるだろうな」

Gusha「で、『この人、最後にこの歌を歌ったのか』って思う」

Kenja「そこまでは分かる」

Gusha「俺は最後の一曲が一番気になる」

Kenja「なぜ?」

Gusha「最後だから」

Kenja「理由がそのままだな」

Gusha「最初の曲は、まだ元気だったかもしれない。途中の曲は、流れで選んだかもしれない。でも最後の一曲には、帰る直前の気持ちが出る気がする」

Kenja「……まあ、選曲の最後には、その日の気分が多少出るかもしれないな」

Gusha「だから俺、前の人の最後の曲を歌ったことある」

Kenja「真似したのか?」

Gusha「拾った」

Kenja「何を?」

Gusha「置いていった気持ち」

Kenja「急に詩人になるな」

Gusha「そのあと、その人が最後に歌った曲を俺が最後に歌った」

Kenja「履歴だけ見たら、同じ人が二回歌ったみたいになるな」

Gusha「そう。俺たち、履歴の中でちょっとだけ混ざった」

Kenja「……それはまあ、面白い考え方だな」

Gusha「だから俺、次の人のためにも何か残したい」

Kenja「変な責任感を持つな」

Gusha「何を歌うか、慎重に決めないと」

Kenja「普通に好きな歌を歌えばいい」

Gusha「でも、2026年の俺が何を歌ったか、未来の誰かが見るかもしれない」

Kenja「そんな大げさな記録じゃない」

Gusha「『この人、最後にめちゃくちゃ明るい歌を入れてる……』って」

Kenja「普通に明るい人だと思われるだけだ」

Gusha「『そのあと静かな歌……何があったんだ』って」

Kenja「何もない」

Gusha「『最後に童謡……?』」

Kenja「何があったんだよ」

Gusha「ほら、Kenjaも気になるじゃん」

Kenja「……確かに、最後に童謡だけは少し気になるな」

Gusha「履歴探偵、入社おめでとう」

Kenja「そんな会社、今日まで知らなかったよ」

Gusha「じゃあ、最後の一曲どうする?」

Kenja「普通に決めよう」

Gusha「……でも次の人、見るかな」

Kenja「見るかもしれないな」

Gusha「……じゃあ、ちょっとだけ考えてから入れようかな」

Kenja「何を?」

Gusha「未来の知らない人に、何を誤解されるか」

Kenja「そこを考えるんじゃないよ」

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