輪ゴムの最後の一本は、なぜ退職させてもらえないのか
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Gusha「俺さ、輪ゴムの退職金について考えてたんだけど」
Kenja「まず輪ゴムは働いてない」
Gusha「働いてるだろ。ブロッコリー束ねたり、コードまとめたり、パンの袋閉じたり」
Kenja「仕事量は認めるけど、退職金は出ない」
Gusha「でも不思議なんだよ。輪ゴムの最後の一本って、絶対クビにならないじゃん」
Kenja「最後の一本?」
Gusha「引き出しの奥にいるやつ。もう茶色くなってるのに生き残ってる」
Kenja「たしかに古い輪ゴムは残りがちだな」
Gusha「俺ん家のは十年選手だぞ」
Kenja「それはもう若干危険だろ」
Gusha「なのに新品の輪ゴムを開封して使うんだよ。古株は全然使わない」
Kenja「じゃあ捨てればいい」
Gusha「それができたら今こうして話してない」
Kenja「そうだな」
Gusha「たぶんあいつには歴史があるんだよ」
Kenja「輪ゴムに?」
Gusha「昔、お菓子の袋を閉じたかもしれないし」
Kenja「うん」
Gusha「大事な説明書を束ねたかもしれない」
Kenja「うん」
Gusha「もしかしたら冷蔵庫のプリン争奪戦も見届けてる」
Kenja「急に目撃者みたいな扱いになったな」
Gusha「輪ゴム裁判があったら証言台に立てるぞ」
Kenja「ないよ」
Gusha「検察『あなたは2022年6月3日の夜を覚えていますか』」

Kenja「輪ゴムに聞くな」
Gusha「輪ゴム『その件は固く結んでおりますので』」
Kenja「上手いこと言ったみたいな顔するな」
Gusha「でもさ、本当に最後の一本だけ残る現象あるだろ?」
Kenja「ある。使い切ることは少ない」
Gusha「鉛筆も最後の一本残る」
Kenja「ティッシュは使い切るのにね」
Gusha「ティッシュは使命感が強い」
Kenja「そんな性格設定ある?」
Gusha「輪ゴムは自由なんだよ。必要になった時だけ現れる流浪の民」
Kenja「引き出しから出てないのに」
Gusha「だから俺、考えたんだ」
Kenja「嫌な予感しかしない」
Gusha「最後の一本は、物じゃない」
Kenja「始まったな」
Gusha「安心なんだよ」
Kenja「どういうことだ」
Gusha「今すぐ使わなくても、『もしもの時に束ねられる』って安心」
Kenja「なるほど。それは少しあるかも」
Gusha「使う予定ない延長コードとか、謎の空き箱とかも同じだろ」
Kenja「持ち主は可能性を保管してるのか」
Gusha「そうそう。輪ゴムは希望なんだよ」
Kenja「だいぶ大げさだけど」
Gusha「宝くじより現実的な希望だぞ」
Kenja「比較対象がおかしい」
Gusha「だって宝くじは当たらないけど、輪ゴムは確実に束ねられる」
Kenja「機能への信頼が強いな」
Gusha「なのに古くなった輪ゴムって、使おうとした瞬間パチンって切れるじゃん」
Kenja「劣化してるからね」
Gusha「俺あれ嫌いなんだよ」
Kenja「みんな嫌いだろ」
Gusha「期待に応えられなかったベテラン感がある」
Kenja「輪ゴム側もそんな重責背負ってないと思う」
Gusha「だから切れた輪ゴム見ると、『長い間ありがとう』って気持ちになる」
Kenja「少しわかる」
Gusha「わかるのかよ」
Kenja「道具って、使い切るより先に役目を終えることが多いからな」
Gusha「だろ? 最後の一本を捨てられないのはケチだからじゃない」
Kenja「愛着かもしれないね」
Gusha「つまり輪ゴムは引退できないんじゃなくて」
Kenja「うん」
Gusha「俺たちが引き止めてるんだよ」
Kenja「その表現は妙に納得する」
Gusha「今夜、引き出し開けてみろ」
Kenja「なんで」
Gusha「たぶん一本くらい、まだ退職願を出せずにいる」
Kenja「そして本人はたぶん何も考えてない」
Gusha「それ言われると急に輪ゴムっぽいな」