手ぬぐい、畳んだだけで一仕事した顔をする
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Gusha「手ぬぐいって、使い終わったあとに畳むと、急に仕事した顔になるよな」
Kenja「いや、布だから顔はないだろ」
Gusha「あるって。さっきまで汗拭いてたくせに、畳んだ瞬間に『本日の業務、終了しました』みたいになる」
Kenja「お前がそう見てるだけだろ」
Gusha「タオルは違うんだよ。丸めて置いても、なんかまだ風呂場にいる感じがする」
Kenja「タオルに勤務地を設定するな」
Gusha「手ぬぐいは畳むと急に社会人になる」
Kenja「布の身分を上げるな」
Gusha「しかも俺、手ぬぐいを畳むとき、妙に端を合わせたくなる」
Kenja「それは普通じゃないか?」
Gusha「普通ならいいんだけど、途中から本気になる」
Kenja「どのくらい?」
Gusha「最初は四つ折りでいいのよ。次にちょっとズレてるのが見えて、直す。直したら反対側がズレてて、また直す」
Kenja「あるな、それ」
Gusha「最後には一ミリのズレを見つめてる」
Kenja「そこまでいったら畳むことが目的になってるだろ」
Gusha「そう。手ぬぐい一枚に人生を預けてる」
Kenja「重いな」
Gusha「で、きれいに畳めると気持ちいいんだよ。別に何も達成してないのに」
Kenja「いや、片づけは達成してるだろ」
Gusha「そう言われると、急に家事っぽいな」
Kenja「家事だよ」
Gusha「でも手ぬぐいって、使ってる最中は雑なんだよな」
Kenja「雑?」
Gusha「首に巻く、汗を拭く、手を拭く、台所で使う。細長いまま、ぐしゃっとなる」
Kenja「まあ、使う道具だからな」
Gusha「なのに最後だけ、ちゃんと四角に戻ろうとする」
Kenja「戻ろうとしてるんじゃなくて、お前が戻してるんだよ」
Gusha「手ぬぐい本人も戻りたがってるかもしれない」
Kenja「本人って言うな」
Gusha「でも見て。ほら」

Kenja「……確かに、ちょっとズレてるな」
Gusha「ほら! 気になるだろ?」
Kenja「いや、今見せられたから気になっただけだ」
Gusha「一回気になると終わりなんだよ」
Kenja「待て。貸してみろ」
Gusha「え?」
Kenja「こういうのは端を合わせてから折ったほうが早い」
Gusha「お前、急に本気になったな」
Kenja「違う。効率の話だ」
Gusha「その顔、効率じゃなくて職人だぞ」
Kenja「黙って見てろ」
Gusha「一回開いて、左右を合わせて、折って……」
Kenja「……ほら」
Gusha「きれい」
Kenja「だろ」
Gusha「めちゃくちゃきれい」
Kenja「こういう小さいズレは、最初に処理しておくと後が楽なんだ」
Gusha「手ぬぐいに業務改善を持ち込んでる」
Kenja「布の話だ」
Gusha「でも、なんか分かる。毎日使って、毎日畳んで、毎日ちょっとだけ形を戻す」
Kenja「そういう繰り返しはあるな」
Gusha「昨日の手ぬぐいと今日の手ぬぐい、同じ一枚なのに、畳み方だけは毎回違う」
Kenja「使った人のその日の雑さが出るんだろ」
Gusha「じゃあ俺が疲れてる日は、手ぬぐいも疲れてる?」
Kenja「布まで疲労判定するな」
Gusha「じゃあ元気な日は、角がピンとしてる?」
Kenja「それはお前の手が丁寧なだけだ」
Gusha「そうか。じゃあ手ぬぐいは何も知らないのか」
Kenja「何も知らない」
Gusha「でも、毎日触ってると、前の日のことがちょっと残る感じはするな」
Kenja「まあ、使った跡とか、洗った感じとか、畳み方とかは残るからな」
Gusha「人間も、昨日の自分を一回畳んでから寝たらいいのにな」
Kenja「どうやって畳むんだよ」
Gusha「肩を内側に」
Kenja「人間を手ぬぐいと同じ扱いするな」
Gusha「じゃあ、俺が今から畳まれる」
Kenja「やめろ」
Gusha「こう……」
Kenja「自分で丸くなるな。危ないだろ」
Gusha「手ぬぐいならできるのに」
Kenja「人間には四隅がないんだよ」
Gusha「そこ、惜しいな」
Kenja「何が惜しいんだ」
Gusha「四隅があったら、畳むの簡単そう」
Kenja「簡単じゃない。お前が人間だったら、たぶん一番ズレる」
Gusha「俺、そんなに?」
Kenja「さっきから手ぬぐい一枚に十分負けてる」
Gusha「じゃあ最後、きれいに畳んで終わろう」
Kenja「いいぞ」
Gusha「……できた」
Kenja「完璧だな」
Gusha「じゃあこれ、何に使おう」
Kenja「今畳んだばかりだろ」
Gusha「汗かいた」
Kenja「早いな!」
Gusha「手ぬぐい、出動」
Kenja「お前、さっきまでの畳み方を三秒で全部無駄にするな!」
Gusha「本日の業務、延長です」
Kenja「残業代は出ないぞ!」
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