靴下の片方はどこへ行く
Gusha「俺、靴下って最初から片方だけ売ればいいと思うんだ」
Kenja「どういう発想だ。普通は二足一組だろ?」
Gusha「でも最終的に片方になるじゃん」
Kenja「そこを最終形態みたいに言うな」
Gusha「洗濯機は毎回一人だけスカウトしてる」
Kenja「誘拐事件にするな」
Gusha「昨日も黒い靴下だけ帰ってきた。もう一人が行方不明」
Kenja「ベランダや洗濯機の裏は見たか?」
Gusha「見た。でも俺は気付いた」
Kenja「何を?」
Gusha「片方が消えた靴下って、残った方もなんか元気ない」
Kenja「気持ちを読み始めるな」
Gusha「見てみろよ。『あいつ、昨日までここにいたんです』って顔してる」
Kenja「顔はない」
Gusha「あるよ。かかとの辺り」
Kenja「それは擦り切れだ」
Gusha「俺、この前さ。洗面所で片方だけ持って『相棒ー!』って呼んでみた」
Kenja「何してるんだ」
Gusha「母ちゃんが『何落としたの?』って来た」
Kenja「説明しづらいな」
Gusha「『靴下です』って言ったら、『洗濯ネット見た?』で終わった」
Kenja「現実的で助かる」
Gusha「でも洗濯ネットにもいなかった」
Kenja「本当に無くしただけじゃないか」
Gusha「俺は違う説を考えてる」
Kenja「嫌な予感しかしない」
Gusha「片方になった靴下だけが行ける町がある」
Kenja「急にファンタジーだ」
Gusha「そこで片方だけ集まってる」
Kenja「左右は?」
Gusha「関係ない」
Kenja「あるだろ」
Gusha「右も左も『会えてよかったですね』って握手してる」
Kenja「靴下に手はない」
Gusha「じゃあ、つま先で」
Kenja「器用だな」
Gusha「その町には洗濯ばさみも片方だけいる」
Kenja「それは挟めないだろ」
Gusha「だから町中の紙が飛ぶ」
Kenja「生活できないじゃないか」
Gusha「みんな困ってるけど楽しそう」
Kenja「どんな町だ」
Gusha「片方だけの手袋もいる」
Kenja「冬に大変そうだ」
Gusha「でももう誰も左右なんて気にしてない」
Kenja「妙に前向きだな」
Gusha「俺、その町ちょっと住みたい」
Kenja「まず今の家を片付けろ」
Gusha「でもさ、本当に不思議じゃない?」
Kenja「まあ、不思議ではある」
Gusha「スプーンは消えない」
Kenja「そうだな」
Gusha「茶碗も消えない」
Kenja「そうだ」
Gusha「靴下だけ『今日は自由になります』って辞める」
Kenja「退職届を出すな」
Gusha「しかも片方だけ」
Kenja「コンビとして最悪だ」
Gusha「漫才中に相方だけ帰るようなもんだ」
Kenja「それはライブ事故だ」
Gusha「『すみません、左だけ失礼します』」
Kenja「客席が混乱する」
Gusha「俺だけ残って『えー、本日は一人でお送りします』」
Kenja「想像したらちょっと面白いな」
Gusha「相方は洗濯機の裏で第二の人生」
Kenja「狭すぎる人生だ」
Gusha「そう考えると、残った靴下をすぐ捨てられなくなる」
Kenja「それは分かる人も多いかもしれない」
Gusha「俺、引き出しに片方だけ十何枚ある」
Kenja「そんなに?」
Gusha「いつか帰ってくる気がして」
Kenja「待ち合わせ場所になってるのか」
Gusha「たまに別の洗濯物の間から急に出てくるんだよ」
Kenja「あるな。数週間後とかに」
Gusha「その瞬間、『生きてたー!』ってなる」
Kenja「2026年にも全国で同じことが起きてそうだ」
Gusha「再会だからな」
Kenja「ただ見落としていただけなんだけどな」
Gusha「でも、その一回の再会があるから、また残った片方を捨てられない」
Kenja「期待が積み重なるわけか」
Gusha「だから俺の引き出しは、再会待ちの待合室なんだ」
Kenja「ずいぶん混んでそうだな」
Gusha「今日も一足、静かに順番待ってる」
Kenja「……その隣で、本当の相方も待ってるといいな」
Gusha「そうなんだよ。たぶん、もうすぐ来る気がする」
Kenja「その『もうすぐ』が、一番長いんだけどな」
