消しゴムは最後に一番働く
Gusha「俺さ、消しゴムは最後に本気を出す生き物だと思ってる」
Kenja「消しゴムに試合終盤みたいな展開あるのか?」
Gusha「最初は四角くて余裕ぶってるじゃん。でも最後、親指の爪くらいになると『ここからです』って顔する」
Kenja「顔はない。というか、最後は使いにくくなるだけだろ?」
Gusha「いや、あのサイズになると急に落とせないんだよ」
Kenja「落としたら終わるからな」
Gusha「床に落ちた瞬間、世界一小さいかくれんぼが始まる」
Kenja「それは分かる。机の下で急に行方不明になる」
Gusha「しかも、あいつは白い床では見つかるのに、木の床だと木目になろうとする」
Kenja「擬態能力を身につけるな」
Gusha「俺、小学校で三日くらい探したことある」
Kenja「三日は盛ってるだろ?」
Gusha「四日だったかもしれん」
Kenja「増えた」
Gusha「新品の消しゴムなんてさ、まだ人生経験ゼロじゃん」
Kenja「人生経験で消す能力は変わらない」
Gusha「でも最後まで残ったやつには歴史があるんだよ。テストも宿題も落書きも全部見てる」
Kenja「それは持ち主の歴史だ」
Gusha「筆箱開けたら、角が全部なくなって丸い石みたいになってるやつ、なんか捨てられない」
Kenja「分からなくはない。文房具って妙に情が湧くことがある」
Gusha「新品は『よろしくお願いします』だけど、小さいやつは『長かったな』なんだよ」
Kenja「退職する社員みたいに言うな」
Gusha「でも最後になると紙より指を消し始める」
Kenja「それは事実だな。指が滑る」
Gusha「俺、昔あまりに小さくなって、消しゴムじゃなくて爪で字を消そうとしてた」
Kenja「完全に役割が逆転してる」
Gusha「しかも消えない」
Kenja「当たり前だ」
Gusha「そこで気付いた。消しゴムは働きすぎると、自分より人間が頑張り始める」
Kenja「妙な哲学だな」
Gusha「あと、小さい消しゴムって筆箱の中で偉そうなんだよ」
Kenja「どこがだ?」
Gusha「新品のシャーペンの横で『お前もいずれこうなる』って顔してる」
Kenja「だから顔はない」
Gusha「消しカスも出し慣れてる」
Kenja「ベテラン感を出すな」
Gusha「新品の消しゴムは『消します!』って勢いだけど、小さいやつは『はいはい、この字ですね』って職人」
Kenja「昭和の寿司職人みたいになってるな」
Gusha「俺だったら、最後まで使われた消しゴムだけ集めた博物館に行く」
Kenja「展示が全部小さい」
Gusha「入口でもらうパンフレットも消しゴムサイズ」
Kenja「読めないだろ」
Gusha「館長が『こちらは九九を三年間支えた個体です』って説明する」
Kenja「個体って言うな」
Gusha「『こちらは二〇一八年、漢字テスト百点に貢献しました』」
Kenja「急に展示に説得力が出てきたな」
Gusha「『こちらは机の隙間に半年いました』」
Kenja「展示というより保護猫の経歴だ」

Kenja「展示写真が一番静かだな」
Gusha「最後の最後って、急にかわいく見えてこない?」
Kenja「それはある。新品より、小さくなったほうが持ち主らしさが出る」
Gusha「だから替えどきが分からない」
Kenja「性能だけ考えればもっと早く替えたほうがいい」
Gusha「でも、替えた瞬間にあいつとの物語が終わるじゃん」
Kenja「物語というほど壮大じゃないけどな」
Gusha「筆箱の隅に転がして、『まだ使うかも』って残す」
Kenja「そして一年後に見つける」
Gusha「『まだいたのか?』って言う」
Kenja「向こうもたぶん同じこと思ってるよ」
Gusha「新品を使い始めても、ときどきその小さいやつを見ちゃうんだよな」
Kenja「次に消す字は、もう決まってないのにな」