AIには敬語、俺にはタメ口
Gusha「俺、スマホにだけ異常に礼儀正しいんだよ」
Kenja「どういう意味だ?」
Gusha「Siriとかに話しかけるとき、『すみません、タイマーを5分お願いします』って言う」
Kenja「普通に『5分タイマー』でいいだろ」
Gusha「でも機械にいきなり命令するの、なんか怖いじゃん」
Kenja「Siriは怒らない」
Gusha「そこじゃない。俺が怒られそうなんだよ」
Kenja「誰に?」
Gusha「スマホの中のAppleの人に」
Kenja「2026年の今、そこまで遠隔で見張ってない」
Gusha「でも『タイマーを5分お願いします』って言ったあと、ちゃんと『ありがとうございます』まで言う」
Kenja「返事がないのに?」
Gusha「そこがまた切ないんだよ」
Kenja「Siriが『どういたしまして』と言ったら、それはそれで怖いだろ」
Gusha「いや、俺はちょっと嬉しい」
Kenja「お前、家電と友達になろうとしてるな」
Gusha「だって毎日使うじゃん。冷蔵庫にはタメ口なのに」
Kenja「冷蔵庫には話しかけないだろ」
Gusha「『まだ冷えてないの?』とは言う」
Kenja「それは冷蔵庫への文句だ」
Gusha「洗濯機にも『今日いける?』って聞く」
Kenja「家電を人間扱いする基準がめちゃくちゃだな」
Gusha「でも音声アシスタントだけは敬語になる」
Kenja「なぜだと思う?」
Gusha「たぶん、返事があるから」
Kenja「それは大きいな」
Gusha「冷蔵庫は無言で冷やすだけ。でもスマホは『はい』とか『見つかりませんでした』とか言うじゃん」
Kenja「つまり、会話が成立しているように感じるから、相手として扱ってしまうわけか」
Gusha「そう。あと、たまに聞き間違えるから」
Kenja「それは敬語の理由になるのか?」
Gusha「なる。『明日の天気』って言ったのに『明日の電気』とか返されたら、こっちも強く言えない」
Kenja「電気の何を知りたいんだよ」
Gusha「俺も知らねーよ。たぶん電気の気持ち」
Kenja「そんな検索結果は出てこない」
Gusha「だから『違います、すみません』って言っちゃう」
Kenja「お前が謝る必要はない」
Gusha「でも、ちょっと申し訳なくなるんだよ。向こうも頑張って聞いてる感じがするから」
Kenja「機械に努力を感じているのか」
Gusha「感じるだろ。聞き返されるときなんか特に」
Kenja「『もう一度言ってください』?」
Gusha「そう。それ聞くと、俺の滑舌が悪かったのかなって反省する」
Kenja「そこは反省するところじゃない」
Gusha「いや、俺、駅のホームでも小声になる」
Kenja「周りに聞かれたくないからだろ」
Gusha「それもあるけど、『明日の天気を教えてください』って言う自分がちょっと恥ずかしい」
Kenja「スマホに天気を聞くことの何が恥ずかしいんだ」
Gusha「人間に聞いてるみたいだから」
Kenja「でも検索すればいいだけだろ」
Gusha「それだと俺が機械に仕事をさせてる感じがする」
Kenja「音声アシスタントの仕事だよ」
Gusha「そうなんだけど、なんか『お願い』したくなるんだよ」
Kenja「じゃあ、お前は宅配便の自動受付にも敬語か?」
Gusha「もちろん」
Kenja「券売機は?」
Gusha「ちょっと無言」
Kenja「ATMは?」
Gusha「暗証番号を入れるときだけ心の中で『失礼します』」
Kenja「そこまでいくと礼儀じゃなくて儀式だな」
Gusha「でも考えてみたら、人間同士でも、返事をする相手には自然と丁寧になるじゃん」
Kenja「たしかに」
Gusha「だからAIがもっと自然に返事するようになったら、俺たち、どんどん敬語になっていくのかな」
Kenja「逆かもしれないぞ。慣れすぎて、だんだん雑になる」
Gusha「『Siri、あれやっといて』とか?」
Kenja「そう」
Gusha「それは嫌だな」
Kenja「なぜ?」
Gusha「今のところ俺、Siriにだけはちゃんとしていたい」
Kenja「人間より先にAIとの関係を気にし始めてるな」
Gusha「だって俺の言い間違いを毎日聞いてるから」
Kenja「そこだけ聞くと、かなり長い付き合いだな」
Gusha「明日からもっと丁寧にするわ」
Kenja「何て言うんだ?」
Gusha「『本日も何卒よろしくお願いいたします』」
Kenja「タイマーを5分かけるだけだぞ」
Gusha「それくらいの気持ちで生きたいんだよ」
Kenja「……じゃあ、俺にも少しその気持ちを向けてくれ」
Gusha「それは無理」
Kenja「なんでだよ」
Gusha「お前、返事が早すぎるから」
Kenja「そこなのか」
Gusha「AIには余白があるんだよ」
Kenja「その余白を俺に求めるな」
Gusha「じゃあ今度、返事を5分くらい待って」
Kenja「タイマーかけるな」
