駅スタンプは、駅より先に旅を終わらせている
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Gusha「駅スタンプって、旅のフライングゴールだよな」
Kenja「何を言ってるんだ」
Gusha「だって駅着いた瞬間に押すじゃん。まだ何も見てないのに達成感だけ来る」
Kenja「確かに押す人はいるけど、ゴールではないだろ」
Gusha「いや、押した時点で八割終わる」
Kenja「観光地に失礼だな」
Gusha「この前なんて駅出る前に満足しかけた」
Kenja「早すぎる」
Gusha「スタンプ帳を開いて、インクをつけて、ガシャンと押した瞬間に『今日やることやったな』って」

Kenja「旅の目標設定がおかしい」
Gusha「考えてみろ。ラーメン屋にもまだ行ってない。城も見てない。でもスタンプだけある」
Kenja「証拠だけ先に完成してるな」
Gusha「そう。旅の領収書を先にもらってる感じ」
Kenja「例えが微妙だな」
Gusha「しかも無料だぞ」
Kenja「そこは魅力かもしれない」
Gusha「だから危険なんだよ。人間は無料の達成感に弱い」
Kenja「ゲームの実績みたいな言い方するな」
Gusha「駅スタンプは日本全国にある巨大な実績解除システムだ」
Kenja「急に壮大になったな」
Gusha「『新宿駅に到達しました』」
Kenja「通知音が聞こえてきそうだ」
Gusha「『金沢駅に到達しました』」
Kenja「まだ分かる」
Gusha「『寝坊せずに出発しました』」
Kenja「そのスタンプはない」
Gusha「欲しい」
Kenja「欲しいのか」
Gusha「俺、旅の途中で見かけるスタンプ台が好きなんだよ」
Kenja「なぜ?」
Gusha「ちょっと隠れてるじゃん。改札の横とか観光案内所の端とか」
Kenja「宝探しみたいな要素はあるな」
Gusha「で、発見した時にテンション上がる」
Kenja「目的地より手前で盛り上がってるな」
Gusha「あと知らない人との謎の連帯感がある」
Kenja「連帯感?」
Gusha「スタンプ台の前で並んでる人、全員ちょっと真顔なんだよ」
Kenja「失敗できないからな」
Gusha「わかる。曲がると悔しい」
Kenja「押した直後の確認も真剣だ」
Gusha「しかも年齢関係ない。子どもも大人も同じ顔」
Kenja「それは面白いな」
Gusha「みんな無言で紙を見てる」
Kenja「確かに独特の光景だ」
Gusha「そして一人だけインクつけすぎて真っ黒にする」
Kenja「たまにいるな」
Gusha「俺だ」
Kenja「お前か」
Gusha「でも途中で気づいたんだ」
Kenja「何を?」
Gusha「スタンプ帳、一回も見返してない」
Kenja「えっ」
Gusha「集める時は全力なのに」
Kenja「それは結構衝撃だな」
Gusha「引き出しに入ってる」
Kenja「じゃあ何のために集めてるんだ」
Gusha「押すため」
Kenja「そこは見返すためじゃないのか」
Gusha「違う。魚を釣る人が毎日魚図鑑を見るわけじゃないだろ」
Kenja「妙に説得力がありそうで困るな」
Gusha「押す瞬間が楽しいんだよ」
Kenja「収集より儀式か」
Gusha「そうそう。駅に来ましたっていう判子を自分に押してる」
Kenja「紙じゃなくて自分にか」
Gusha「だから俺、理想のスタンプ考えた」
Kenja「嫌な予感しかしない」
Gusha「巨大化だ」
Kenja「はい?」
Gusha「直径二メートル」
Kenja「でかすぎる」
Gusha「人が下に寝転ぶ」
Kenja「何を押す気だ」
Gusha「旅行者本人」
Kenja「スタンプ帳終わるだろ」
Gusha「服に駅名が付く」
Kenja「洗濯で消えるわ」
Gusha「じゃあ旅の最後には全身スタンプまみれだ」
Kenja「不審者じゃないか」
Gusha「駅員さんが『次の方どうぞ』って言うたびに人がゴロンと転がる」
Kenja「見たくはあるな」
Gusha「全国の名物駅になるぞ」
Kenja「移動より転がる回数が増える」
Gusha「待てよ」
Kenja「まだあるのか」
Gusha「スタンプ帳いらないじゃん」
Kenja「結論そこ?」
Gusha「旅の思い出を着て帰れる」
Kenja「そんな服で新幹線に乗るな」
Gusha「ほら見ろ。さっそく胸のところに『博多駅』押してくる」
Kenja「それ、駅スタンプじゃなくてクリーニング店の受付印だぞ」