店員さんの「少々お待ちください」は、どれくらい少々なのか
Gusha「俺、『少々お待ちください』の『少々』だけ集めて瓶に詰めたい」
Kenja「何の研究だよ」
Gusha「だって店ごとに違うじゃん。コンビニの少々と病院の少々、密度が違う」
Kenja「密度じゃなくて長さだろ」
Gusha「違う。時間じゃない。気持ちなんだ」
Kenja「いきなり哲学に逃げるな」
Gusha「スーパーで『少々お待ちください』って言われたら十五秒くらい」
Kenja「まあそんなもんだな」
Gusha「銀行だと三分」
Kenja「混んでたらそれくらいある」
Gusha「病院だと、俺の中で一回人生を振り返る」
Kenja「待合室で何があった」
Gusha「診察券見て『この病院、2019年にも来てたんだ』とか思い出す」
Kenja「待ち時間の使い方がおじいちゃんなんだよ」
Gusha「でも『少々』って言われると許せるんだよな」
Kenja「確かに『二十七分お待ちください』って言われるより柔らかい」
Gusha「数字じゃないから」
Kenja「逆に曖昧だけどな」
Gusha「俺、もし店員だったら『ほんのりお待ちください』って言う」
Kenja「余計わからん」
Gusha「『ふんわりお待ちください』」
Kenja「パンみたいになった」
Gusha「『そこそこお待ちください』」
Kenja「もう覚悟ができるな」
Gusha「『まあまあ待ちます』」
Kenja「正直すぎる」
Gusha「『結構いきます』」
Kenja「遊園地のアトラクションか」
Gusha「『今日は腰を据えてください』」
Kenja「もう引っ越しじゃないか」
Gusha「待つ人にも才能あると思うんだ」
Kenja「才能?」
Gusha「待ってる間にスマホ見たり、天井の模様数えたり、水飲んだり」
Kenja「人間はいくらでも暇をつぶせる」
Gusha「でも『少々』って言われた瞬間だけ、何していいかわからなくなる」
Kenja「それは少しわかる」
Gusha「スマホ出した瞬間に呼ばれそうで」
Kenja「あるな」
Gusha「本読んだ瞬間に呼ばれそうで」
Kenja「ある」
Gusha「トイレ行った瞬間に名前呼ばれる」
Kenja「それは本当にある」
Gusha「だから動けない」
Kenja「『少々』には人をその場に固定する力があるんだな」
Gusha「魔法だよ」
Kenja「呪文みたいに言うな」
Gusha「だから俺、呼ばれるまでずっと空気になる」
Kenja「空気にはなれてない」
Gusha「気配を消してる」
Kenja「いや、待ってる人はだいたい気配ある」
Gusha「名前呼ばれた瞬間だけ復活する」
Kenja「RPGのイベントキャラか」

Gusha「でも不思議なんだよ」
Kenja「何が」
Gusha「『少々お待ちください』って言った本人も、たぶん少々が何秒かわかってない」
Kenja「それはそうかもしれない」
Gusha「未来が見えてないから」
Kenja「レジが混むかもしれないし、機械の調子もあるしな」
Gusha「つまり少々は予言」
Kenja「違う。見込みだ」
Gusha「見込みが外れて十分になっても、誰も『少々詐欺でした』って言わない」
Kenja「そんな謝罪聞いたことない」
Gusha「俺だったら『先ほどの少々ですが、育ちました』って報告する」
Kenja「野菜じゃないんだから」
Gusha「『少々が立派になりまして』」
Kenja「成長するな」
Gusha「『現在、中々になっております』」
Kenja「段階表示になった」
Gusha「最終的に『しばらく』になる」
Kenja「進化系みたいに言うな」
Gusha「少々、中々、しばらく」
Kenja「ポケモンじゃない」
Gusha「最後は『本日はありがとうございました』」
Kenja「帰されてるじゃないか」
Gusha「待ち時間って時計じゃなくて言葉でできてる気がする」
Kenja「確かに『あと一分です』と『少々お待ちください』じゃ、同じ一分でも感じ方は違うな」
Gusha「だから俺、『少々』って言われるたびに思う」
Kenja「何を」
Gusha「今日はどんな少々なんだろうなって」
Kenja「その少々を瓶に詰める日は、まだ少々先かもしれないな」
境目だけが覚えている シリーズ
- 境目だけが覚えている
- 店員さんの「少々お待ちください」は、どれくらい少々なのか ← 今読んでる記事
- 閉まる音だけで、今日が決まる気がする
- エレベーターの「閉」ボタンだけ、妙に信じられている
- 信号待ちは誰の時間なんだ
- 自動ドアのタイミング
← 前の記事:境目だけが覚えている
次の記事:閉まる音だけで、今日が決まる気がする →