自動ドアのタイミング
Gusha「俺、自動ドアに嫌われてる」
Kenja「急に被害者になったな。スーパーの入口で何があった」
Gusha「普通に歩いてたのに開くの遅かった」
Kenja「センサーの角度とか距離の問題だろ」
Gusha「俺を見て『あ、こいつはもうちょっと待たせてもいいか』って判断してる」
Kenja「人工知能でもそこまで性格は悪くない」
Gusha「でも急いでる時ほど遅い」
Kenja「急いでるから長く感じるだけだ」
Gusha「逆に暇な時は遠くから『どうぞー』って感じで開く」
Kenja「気持ちの問題だ」
Gusha「自動ドアって、人間の余裕を食べてるだろ」
Kenja「新しいエネルギー資源みたいに言うな」
Gusha「余裕がある人を見ると『いただきます』って開く」
Kenja「それなら日本中のショッピングモールが余裕で発電できる」
Gusha「あとさ、一回立ち止まると開かない時あるよな」
Kenja「あるな。近すぎると反応しづらい場合もある」
Gusha「『覚悟を決めて進め』って言われてる感じ」
Kenja「ドアを人生の先生にするな」
Gusha「俺、一歩引いてから入り直す」
Kenja「相撲じゃないんだから」
Gusha「すると開く」
Kenja「センサーの範囲に入り直しただけだ」
Gusha「つまり礼儀だった」
Kenja「違う」
Gusha「自動ドアは礼儀正しい人を歓迎する」
Kenja「だったら毎朝お辞儀して入る人だらけになる」
Gusha「それ見たい」
Kenja「ちょっと見たいな」
Gusha「コンビニで入口の前だけ全員ペコッてしてる」
Kenja「店員が『今日は何のイベントですか』ってなる」
Gusha「外国人観光客も『日本ではここであいさつするんですね』って」
Kenja「間違った文化が輸出される」
Gusha「『自動ドア神社』って紹介される」
Kenja「神社じゃない」
Gusha「鳥居の代わりにウィーンって開く」
Kenja「それ入口だ」

Gusha「あと子どもの頃やっただろ」
Kenja「何を」
Gusha「ドアに勝とうとするやつ」
Kenja「勝とう?」
Gusha「開く前に通り抜ける」
Kenja「無理だろ」
Gusha「いや、挑戦する」
Kenja「危ないからやめろ」
Gusha「失敗するとドアに肩だけ当たる」
Kenja「未来の自分が止めに来る案件だ」
Gusha「ドアが『まだです』って」
Kenja「交通整理じゃない」
Gusha「でも一回は思うだろ。俺よりドアが先に動くのか、俺が先に通れるのか」
Kenja「競争相手として認識したことはない」
Gusha「俺はライバルだった」
Kenja「自動ドア側は初耳だぞ」
Gusha「向こうも毎日『今日は速いやつ来るかな』って」
Kenja「ドアにも勤務態度を持たせるな」
Gusha「ベテランドアは速い」
Kenja「年功序列なのか」
Gusha「新人ドアは『えっ、人!?』って慌てる」
Kenja「そんな研修期間はない」
Gusha「横で先輩ドアが『落ち着け。開けばいい』」
Kenja「教育係までいるのか」
Gusha「『閉めるのを焦るな。カートが来る』」
Kenja「その指導だけ妙に現実的だな」
Gusha「大型スーパーの自動ドアはベテラン感ある」
Kenja「確かに一日に何千人も相手してるだろうな」
Gusha「駅前の小さい店のドアは人見知り」
Kenja「統計を一切取ってない分析だな」
Gusha「俺が夜に行くと『まだ営業ですか?』みたいな顔する」
Kenja「顔はない」
Gusha「でも開き方で分かる」
Kenja「分からない」
Gusha「ウィーンじゃなくて『……ウィ』くらい」
Kenja「擬音に自信がないな」
Gusha「疲れてる」
Kenja「疲れてるのはお前の想像力だ」
Gusha「自動ドアって、誰も気にしてないけど毎日すごい人数を迎えてるんだよな」
Kenja「言われてみれば、一番多く『いらっしゃい』をしてる設備かもしれない」
Gusha「なのに誰も『今日もありがとう』って言わない」
Kenja「言ったら店員より先にあいさつすることになる」
Gusha「明日ちょっと言ってみる」
Kenja「ドアは返事しないぞ」
Gusha「返事が遅かったら」
Kenja「それでたぶん、お前はまた嫌われたと思うんだろうな」
境目だけが覚えている シリーズ
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