「一枚だけ」のつもりだった布が、だんだん増えていく
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Gusha「……増えた」
Kenja「何が」
Gusha「手ぬぐい」
Kenja「早いなハマるの」
Gusha「いや違うのよ。“一枚だけ試してみるか”だったの。猫のやつ買って、まあ便利だったのよ」
Kenja「うん」
Gusha「で、“洗い替えいるな”ってなって、気づいたら今四枚」
Kenja「順調に増殖してるな」
Gusha「しかも全部なんか違うんだよ」
Kenja「柄?」
Gusha「人格」
Kenja「また始まったな」
Gusha「猫のやつは“まあ気楽にいこうぜ”って感じで、青いやつは“今日はちゃんとしよう”って感じ」
Kenja「布に朝礼させるな」
Gusha「でも分かるだろ?なんかその日の気分あるじゃん」
Kenja「まあ、服選ぶ感覚に近いのか」
Gusha「そう!でも服ほど重くないのよ。“今日はこの人間でいきます”って宣言じゃなくて、“今日はちょっと涼しくいたいです”くらい」
Kenja「自己主張が弱いな」
Gusha「そこがいいんだよ」

Kenja「で、実際どうなの。ちゃんと使ってんの?」
Gusha「めちゃくちゃ使ってる。まず汗」
Kenja「まあ夏だしな」
Gusha「タオルだと途中から“もう無理です…”みたいになるじゃん」
Kenja「吸いすぎて限界迎える感じな」
Gusha「でも手ぬぐい、なんか粘るのよ」
Kenja「布に根性論を持ち込むな」
Gusha「しかも乾くの早いから、夜洗って窓辺に置いといたら朝には復活してる」
Kenja「そこは実際かなり便利だよな」
Gusha「あとね、最近ちょっと感動したことがあって」
Kenja「嫌な予感するな」
Gusha「ラーメン屋で汗だくになったあと、首の手ぬぐいで顔拭いたの」
Kenja「うん」
Gusha「その瞬間、“夏って悪くないかも”って思った」
Kenja「単純だなお前」
Gusha「いやでもあるだろ。急に季節と和解する瞬間」
Kenja「まあ……分からなくはない」
Gusha「タオルだと“対処”なのよ。手ぬぐいだと“付き合ってる”感じ」
Kenja「その違いはちょっと面白いな」
Gusha「敵じゃなくなるんだよ、汗が」
Kenja「いや汗は敵だろ基本」
Gusha「でも“しょうがないよね今日暑いし”ってなる」
Kenja「妙に受容的になるな」
Gusha「あと、畳めるのがいい」
Kenja「いやそこ?」
Gusha「タオルって、畳んでも“います”って感じするじゃん」
Kenja「前も言ってたなその“存在感”」
Gusha「手ぬぐいはスッて消える。カバンの隙間に」
Kenja「まあ薄いからな」
Gusha「なんか、“邪魔しません…”って感じ」
Kenja「謙虚な布だな」

Gusha「この前さ、電車で隣のおじさんも手ぬぐい使ってたのよ」
Kenja「ほう」
Gusha「で、なんかちょっと嬉しかった」
Kenja「仲間意識?」
Gusha「いや、“分かってる人いた”みたいな」
Kenja「その界隈なんなんだよ」
Gusha「しかも使い込まれてて、端ちょっとほつれてんの」
Kenja「手ぬぐいって切りっぱなし多いからな」
Gusha「最初、“え、雑!”って思ったけど、使ってるうちにあれ気にならなくなるのな」
Kenja「むしろ乾きやすいし、理にかなってる」
Gusha「そう。で、なんかそのほつれ見てたら、“ああ、この人ずっと使ってるんだな”って」
Kenja「……道具の時間が見える感じか」
Gusha「そうなのよ。新品のピカピカじゃなくて、“馴染んでる”感じ」
Kenja「お前、だいぶ手ぬぐい側に行ったな」
Gusha「でもさ、まだちょっと不思議なんだよ」
Kenja「何が?」
Gusha「こんな布一枚で、なんでちょっと機嫌よくなるんだろって」
Kenja「まあ、生活の小さいストレス減ると気分変わるし」
Gusha「それだけかなあ」
Kenja「……あとは、“ちゃんと使ってる感”かもな」
Gusha「え?」
Kenja「使い捨てじゃなくて、洗って、乾いて、また使ってって。生活に参加してる感じ」
Gusha「……お前もだいぶ来てるぞ」
Kenja「いや、完全には分からんけどな?」
Gusha「うん、その“完全じゃない”感じがちょうどいいんだよ」
Kenja「またそれ言う」
Gusha「だって、手ぬぐいってなんか、“便利です!”って圧がないじゃん」
Kenja「確かにな。静かなんだよな、全体的に」
Gusha「そう。“ここに置いとくんで、必要ならどうぞ”みたいな」
Kenja「……」
Gusha「なんだよ」
Kenja「いや、ちょっと今、青いやつ気になってる」
Gusha「あら?」
Kenja「富士山や鯉は違うんだよ。俺はまだそこじゃない」
Gusha「入口が細かいな」

手ぬぐい シリーズ
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