For some reason, I can't bring myself to throw away the test print paper.

試し押しの紙だけ、なぜか捨てられない

Kenja「印鑑の試し押しの紙を取っておく人なんているのか」

Gusha「いる。ここにいる」

Kenja「何の価値もないだろ」

Gusha「価値はない。でも、たまに引き出しから出てくる」

Kenja「それは片付いてないだけだ」

Gusha「違うんだよ。あの紙、人生の練習跡みたいでさ」

Kenja「急に大げさになったな」

Gusha「だって印鑑って、本番一発勝負じゃん」

Kenja「まあ、そうだな」

Gusha「だから横で何回も押すだろ。薄かったり、ズレたり、力入れすぎたり」

Kenja「確かにやる」

Gusha「で、一番きれいなのが出た瞬間だけ本番に行く」

Kenja「それは普通の手順だ」

Gusha「でも人生、だいたい試し押しできないじゃん」

Kenja「話が広がり始めたな」

Gusha「だからあの紙を見ると安心するんだよ。失敗していい場所があったんだなって」

Kenja「そんなこと考えながら押してないだろ」

Gusha「押してる最中は考えてない。でも後から思う」

Kenja「後付けの可能性が高いな」

Gusha「あと、同じ印鑑なのに全部ちょっと違う」

Kenja「力加減が違うからな」

Gusha「人間っぽいよな」

Kenja「印鑑が?」

Gusha「俺が」

Kenja「そっちか」

A piece of paper that has been repeatedly stamped on, placed next to the ink pad.

Gusha「最近さ、サインすること増えたじゃん」

Kenja「デジタル化で印鑑は減ったな」

Gusha「だから逆に、たまに押すと特別なんだよ」

Kenja「確かに昔より儀式感はある」

Gusha「役所とかで押す前、ちょっと緊張しない?」

Kenja「少しはする」

Gusha「失敗したらやり直し面倒だし」

Kenja「だから試し押しするんだろ」

Gusha「そう。その数秒のためだけに存在する紙なのに、妙に働いてる」

Kenja「目立たない道具ではあるな」

Gusha「主役じゃないのに、いないと困る」

Kenja「黒子みたいなものか」

Gusha「むしろ本番より失敗の方を引き受けてる」

Kenja「その見方は少し面白いな」

Gusha「だろ?」

Kenja「でも、だからといって保管はしない」

Gusha「そこは人それぞれだ」

Kenja「ただ、今度試し押しするときは少し見方が変わるかもしれない」

Gusha「取っとく?」

Kenja「それはない」

Gusha「あらら?」

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