充電ケーブルは夜に伸びる
Gusha「俺んちの充電ケーブル、夜だけ縮むんだよ」
Kenja「ゴムじゃないんだから縮まない。何センチのケーブルだ?」
Gusha「知らん。でも昨日まではベッドの真ん中まで届いてた」
Kenja「昨日と今日でベッドが巨大化したのか?」
Gusha「その可能性はある」
Kenja「ない。まず人類史にない」
Gusha「でもさ、寝転がってスマホ見ようとすると『あと五センチ!』ってなるじゃん」
Kenja「それはコンセントとの距離を毎日適当に決めてるからだ」
Gusha「俺は毎日同じ人間だぞ」
Kenja「家具は動く。枕もずれる。体勢も違う」
Gusha「いや、ケーブルの方が『今日はここまでです』って線引いてる感じある」
Kenja「勤務時間じゃないんだから」
Gusha「昼間は元気なんだよ。ソファでも使える。でも夜になると『本日の営業は終了しました』って顔する」
Kenja「顔はない」
Gusha「あるよ。根元のあたり」
Kenja「それは被覆だ」
Gusha「あと、充電しながらスマホ見ると、急にケーブルが服に引っかかる」
Kenja「それは腕や布団が引っかかってるだけだ」
Gusha「違う。あいつ、布団のしわを利用してる」
Kenja「ずいぶん戦術的だな」
Gusha「一回、足の指に絡まって、そのままスマホが飛んだ」
Kenja「それは君が罠にかかっただけだ」
Gusha「ケーブルってさ、普段は一本なのに、絡まる瞬間だけ知能が四本くらいになる」
Kenja「タコみたいに言うな」
Gusha「イヤホンも昔そうだった」
Kenja「有線イヤホンは確かにポケットの中で芸術作品みたいになることはあった」
Gusha「誰も結び方教えてないのに」
Kenja「物理現象だ」
Gusha「物理って、たまに性格悪いよな」
Kenja「それは否定しづらい」
Gusha「あと充電中って、あと一メートル長ければ世界平和なのにって思う」
Kenja「二メートルのケーブルを買えばいい」
Gusha「買うだろ?」
Kenja「うん」
Gusha「そしたら今度は余る」
Kenja「それは余るだろ」
Gusha「余ったところが蛇みたいになって足に絡む」
Kenja「結局絡むのか」
Gusha「長くても短くても絡む」
Kenja「問題は長さじゃない気がしてきた」
Gusha「そう。距離感なんだよ」
Kenja「急に深そうなこと言うな」
Gusha「近すぎると引っ張るし、遠すぎると届かない」
Kenja「人間関係みたいに言うな」
Gusha「ケーブルは人間関係の先生だ」
Kenja「だいぶ授業料が安い先生だな」
Gusha「しかも充電が一〇〇%になると急に冷たくなる」
Kenja「役目が終わるからだ」
Gusha「『もう俺に用はないんだろ』って」
Kenja「被害妄想まで始めた」
Gusha「でも抜くときだけ、ちょっと名残惜しい」
Kenja「それはスマホを持ち歩くからだ」
Gusha「コンセントの前に置いて帰ると『また来てね』って感じする」
Kenja「コンビニじゃない」
Gusha「セブン-イレブンの店員さんくらいの距離感」
Kenja「具体例が出ると急に想像できるな」
Gusha「そう考えると、毎晩『よろしくお願いします』って挿して、『ありがとうございました』って抜いてる」
Kenja「儀式だったのか」
Gusha「だから夜になると縮むんじゃなくて、俺がケーブルに甘えて近づきすぎてるのかもしれん」
Kenja「その結論なら少し納得できる」
Gusha「でも今日もあと五センチ足りない気がする」
Kenja「その五センチは、たぶん毎晩どこかへ歩いて行ってるんだろうな」
Gusha「見つけたら連れて帰ってくれ」
Kenja「まず布団の下を探してみよう」
Gusha「そこにいたら、一番それっぽいな」
