通知の赤い数字は、なぜ急かしてくるのか
Gusha「スマホの右上に赤い数字があると、俺、借金取りに追われてる気分になる」
Kenja「通知だろ。何でいきなり借金取りなんだよ」
Gusha「だって一個あるだけで、ずっとこっち見てくるじゃん」
Kenja「数字は見てない。表示されてるだけだ」
Gusha「でも『1』だぞ」
Kenja「1だから何だよ」
Gusha「『俺を放置してるのは分かってる』の1だよ」
Kenja「通知にそんな圧を感じるな」
Gusha「メールとか、メッセージとか、アプリの更新とか。全部まとめて赤い丸になるだろ」
Kenja「まあ、未読件数を知らせるためのものだからな」
Gusha「じゃあ、俺のスマホ、今かなり怒ってる」
Kenja「何件あるんだよ」
Gusha「三十二」
Kenja「それは怒ってるんじゃなくて、お前が見てないだけだろ」
Gusha「でも不思議なんだよな。三十二件あるときは、もう見ない」
Kenja「諦めるのが早いな」
Gusha「三十二は数字じゃない。景色だよ」
Kenja「どういう意味だよ」
Gusha「『未処理』が山になったら、山として見るだろ。三十二件の一件一件なんて、もう個人じゃない」
Kenja「通知を人間みたいに数えるな」
Gusha「逆に『1』になると急に気になる」
Kenja「それは分かる。残り一件だと消したくなるからな」
Gusha「そう。三十二件は放置できるのに、1件だけになると急に掃除したくなる」
Kenja「部屋と同じような感覚かもしれないな」
Gusha「違う。部屋のゴミは見なければ存在感が薄れるけど、スマホの1は見てないのに存在を主張してくる」
Kenja「赤い数字だからな」
Gusha「しかも赤ってずるいよな。青とか緑だったら、もうちょっと落ち着いて待てる」
Kenja「色に責任を押しつけるな」
Gusha「信号だって赤は止まれだろ」
Kenja「それは交通安全のためだ」
Gusha「スマホの赤も『止まって、俺を見ろ』じゃん」
Kenja「そこまで命令してない」
Gusha「俺なんか、料理中でも気になるぞ」
Kenja「何の通知か確認すればいいだろ」
Gusha「いや、手が濡れてる」
Kenja「じゃあ後で見ろよ」
Gusha「でも赤い」
Kenja「だから何だよ」
Gusha「大根切ってる横で、スマホがずっと赤い顔してる」
Kenja「スマホは顔じゃない」
Gusha「俺が大根を切ってる間に、向こうでは何かが起きてる」
Kenja「通知が来てるだけだ」
Gusha「その『だけ』が怖いんだよ」

Kenja「何が起きてるか気になるなら、確認すればいいだけだろ」
Gusha「それで何でもない通知だったら?」
Kenja「それなら消せばいい」
Gusha「それが一番腹立つんだよ」
Kenja「何で?」
Gusha「俺の集中力を一回奪っておいて、『キャンペーンのお知らせです』とか出てくる」
Kenja「それは確かに期待した内容とは違うな」
Gusha「しかも『お得な情報をお届けします』って」
Kenja「まあ、そういう通知もあるな」
Gusha「俺は今、大根を届けてるんだよ」
Kenja「知らないよ」
Gusha「大根のほうが重要だろ」
Kenja「なら通知を見るな」
Gusha「でも消したくなる」
Kenja「結局そこに戻るのか」
Gusha「赤い数字が1から0になる瞬間、ちょっと気持ちいいんだよ」
Kenja「分からなくはない」
Gusha「ほら、今ちょっと共感した」
Kenja「いや、整理されるから気持ちは分かるだけだ」
Gusha「じゃあ今度から通知が来るたび、お前にも見せる」
Kenja「何で俺が処理係なんだよ」
Gusha「俺のスマホ、三十二件あるから」
Kenja「まず自分で見ろ」
Gusha「三十二は無理だって」
Kenja「さっき言ってただろ。1件なら気になるって」
Gusha「じゃあ、三十二件を全部1件ずつに分けたらいい」
Kenja「一番面倒なことするな」
Gusha「でも最後に0になったら……」
Kenja「なったら?」
Gusha「また何か届くんだろうな」
Kenja「……まあ、そうなるな」
Gusha「じゃあ、0って一瞬しかないじゃん」
Kenja「そういうことになるな」
Gusha「スマホって、落ち着いたと思った瞬間に、また赤くなるんだな」
Kenja「……見なきゃいいだけなんだけどな」
Gusha「それができたら、こんな話してないよ」
Kenja「それもそうか」
Gusha「……今、鳴った?」
Kenja「鳴ってない」
Gusha「でも赤くなってない?」
Kenja「なってない」
Gusha「じゃあ、俺の気のせいか」
Kenja「たぶんな」
Gusha「……でも一応、見せて」
Kenja「何を?」
Gusha「スマホ」
Kenja「自分のを見ろよ」
Gusha「そっちは赤くないか確認したい」
Kenja「お前、完全に数字に負けてるぞ」