「あとで」が住みつく場所
Gusha「『あとでやる』ってさ、時間じゃなくて土地の名前だと思うんだ」
Kenja「いきなり何を言ってるんだ」
Gusha「だから、『あとで』という場所があるの。人はそこに物事を送る」
Kenja「場所じゃない。未来の時点だ」
Gusha「じゃあ聞くけど、あとで読む記事、あとで返す連絡、あとで調べる店。みんな同じ未来に行ってる?」
Kenja「いや、行ってないな」
Gusha「だろ? 未来だったら順番に来るはずなのに、二度と帰ってこないやつがいる」
Kenja「確かに『あとで』と言ったまま消える案件は多い」
Gusha「俺の中では巨大な倉庫になってる」
Kenja「それは少し分かる」
Gusha「しかも不思議なのが、急ぎじゃないものほど入れやすいんだよ」
Kenja「緊急性が低いからな」
Gusha「でも、やりたいと思ったから保存したんだぞ?」
Kenja「そこが面白いところだな。やりたい気持ちと、実際にやることは別なんだ」
Gusha「俺は映画を十本くらい『あとで観る』に入れてる」
Kenja「何本観た?」
Gusha「一」
Kenja「十分の一か」
Gusha「しかも観たのは、保存してなかった映画」
Kenja「人間らしい話だ」

Gusha「昔はこんなに『あとで』なかった気がする」
Kenja「メモも保存も簡単じゃなかったからな」
Gusha「気になったら、その場でやるか忘れるかだった」
Kenja「今は忘れないように残せる」
Gusha「でも、忘れないようにした結果、やらないものも増えた」
Kenja「保存が成功しすぎたのかもしれない」
Gusha「そうなんだよ。昔の忘却は乱暴だったけど公平だった」
Kenja「公平?」
Gusha「本当に大事なものだけ、生き残ろうとするじゃん」
Kenja「記憶に残るものだけが残る、という話か」
Gusha「今は全部救助される」
Kenja「なるほど」
Gusha「気になる記事も、面白そうな動画も、行きたい店も、とりあえず助ける」
Kenja「そして倉庫に積まれる」
Gusha「結果として、誰も出所できない」
Kenja「倉庫の管理者が怠け者だからだろ」
Gusha「失礼な。管理者は忙しい」
Kenja「なお悪い」
Gusha「でも最近思うんだ。『あとで』に入れた時点で、半分満足してるんじゃないかって」
Kenja「それはありそうだな」
Gusha「読みたい気持ちじゃなくて、読める権利を確保した気持ち」
Kenja「実行ではなく予約で安心している」
Gusha「旅行雑誌を買っただけで旅した気分になるやつ」
Kenja「分からなくもない」
Gusha「だから俺、『あとで読む』を減らした」
Kenja「全部読むことにしたのか?」
Gusha「逆」
Kenja「逆?」
Gusha「その場で読まないなら閉じる」
Kenja「思い切ったな」
Gusha「そしたら、本当に気になるやつだけ何回も出会う」
Kenja「また見かけるわけか」
Gusha「そう。しつこく現れる」
Kenja「それは確かに強い興味かもしれない」
Gusha「人間関係もそうじゃん。一回会っただけで終わる人もいるし、なぜか何度も会う人もいる」
Kenja「偶然の再会には意味を感じやすいな」
Gusha「情報も同じなんじゃない?」
Kenja「全部を抱え込まなくてもいい、という話か」
Gusha「うん。『あとで』を増築し続けるより、少し空き地を作った方が楽だった」
Kenja「私はまだ大量に抱えてるけどな」
Gusha「何件くらい?」
Kenja「あとで読むが千件近い」
Gusha「それもう図書館じゃん」
Kenja「図書館なら整理されている」
Gusha「確かに」
Kenja「私の場合は倉庫だな」
Gusha「ほらな。土地の名前だったろ?」
Kenja「それを認めるのは悔しいが、少なくとも時間の名前ではなさそうだ」