傘立て、傘より空きスペースを守っている

Gusha「傘立てって、傘がないときのほうが堂々としてるよな」

Kenja「何の話だよ。傘を立てるための道具だろ」

Gusha「玄関に置いてあるとさ、傘が一本も入ってなくても、そこだけ『収納、任せてください』って顔してるんだよ」

Kenja「顔はないし、仕事も待機中だ」

Gusha「でも、いざ雨が降って傘が帰ってくると、急に態度が変わる」

Kenja「傘立ての態度って何だ」

Gusha「一本目は歓迎。二本目も歓迎。三本目くらいから、もう満員電車の駅員みたいになる」

Kenja「普通の傘立てなら、入るだけ入るだろ」

Gusha「それが入らないんだよ。傘は四本しかないのに、全部が斜めになって、もう満員なんだ」

Kenja「柄がぶつかって傾いてるだけだろ」

Gusha「違う。傘立ての中で、傘たちが肩を組んでるんだよ。俺が一本抜こうとすると、残り全員がついてくる」

Kenja「傘の柄をまとめて持ったんじゃないのか」

Gusha「違う。一本だけ使いたいのに、全員で外出しようとする」

Kenja「傘立てからの一斉退場だな」

Gusha「しかも、ようやく一本抜けたと思ったら、今度は残った傘が倒れる。あれ、何なの?」

Kenja「傘同士で支え合っていたんだろ」

Gusha「じゃあ傘立ては何をしてるんだよ」

Kenja「傘の先を受け止めてる」

Gusha「先端だけ?」

Kenja「商品によって違うが、まあ、そういうものもある」

Gusha「上半身は傘同士の友情に任せて、足元だけ面倒を見るのか」

Kenja「急に組織の責任分担みたいになったな」

Gusha「俺が傘立てだったら、もっと頑張るけどな。傘一本ずつに個室を用意する」

Kenja「玄関に傘立てのマンションを建てる気か」

Gusha「一階は折りたたみ傘専用。二階は長傘。屋上は日傘」

Kenja「屋外に日傘を置いたら、雨の日に困るだろ」

Gusha「管理人室には、行方不明のビニール傘を住まわせる」

Kenja「勝手に管理人室を増築するな」

Gusha「でもさ、俺の家の傘立て、右側が空いてるのに、左側だけ傘が密集してるんだよ」

Kenja「入れやすい場所に集中してるんだろ」

Gusha「左側が人気物件なんだな。右側なんて、ずっと空室だぞ。内見も来ない」

Kenja「傘を一本ずつ案内して回るのか」

Gusha「しかも、右側に一本入れようとすると、左側の傘が倒れてくる。空室を守るための嫌がらせだよ」

A blonde chibi woman struggles to pull an umbrella from a crowded umbrella stand while a silver-haired man watches with a bemused expression in a bright Japanese home entrance.

Kenja「単に傘のバランスが悪いんだ」

Gusha「なるほど。右側は事故物件か」

Kenja「その結論は撤回してくれ」

Gusha「穴がいっぱい開いてるタイプを見ると、俺、いつも思うんだよ。これ、全部に傘を入れなきゃいけないのかって」

Kenja「そんな義務はない」

Gusha「穴が八個あったら、八本入れないと傘立てに申し訳ないじゃん」

Kenja「傘立ては穴の使用率を気にしてない」

Gusha「じゃあ、空いてる穴は何のためにあるんだよ」

Kenja「余裕だよ。一本ずつ取り出しやすくするための空間だ」

Gusha「じゃあ、うちの傘立ては余裕を大事にしてるんだな。右側なんて、余裕しかない」

Kenja「それは単に偏ってるだけだ」

Gusha「でもさ、雨の日に家族が帰ってきて、傘を立てようとしたら入らない。そんなときはどうする?」

Kenja「一本抜いて、スペースを作ればいいだろ」

Gusha「その一本をどこに置くんだよ」

Kenja「別の場所に立てるか、壁に立てかけるかだな」

Gusha「玄関に傘立てがあるのに、傘を壁に立てかけるのか」

Kenja「そうなることもある」

Gusha「傘立てがある家で、傘立てを使えない。これはもう、玄関の中に小さな矛盾が建ってる」

Kenja「建築確認はいらないぞ」

Gusha「よし、今日からうちの傘立てには定員を設ける」

Kenja「何本だ?」

Gusha「二本」

Kenja「四本ある傘はどうする」

Gusha「残り二本は、傘立ての前で順番待ち」

Kenja「雨の日に玄関で傘が行列を作るのか」

Gusha「先頭の傘には番号札を渡す」

Kenja「傘が自分で番号札を持てるわけないだろ」

Gusha「じゃあ俺が持つ。雨が降ったら、玄関で整理券を配る」

Kenja「傘を使う前に受付が必要なのか」

Gusha「本日の長傘は二本までです。折りたたみ傘のお客様は、あちらの小さい穴へどうぞ」

Kenja「傘立てを市役所の窓口にするな」

Gusha「それで、全部の傘が出払ったら、傘立てはまた空っぽになるだろ」

Kenja「そうだな」

Gusha「そしたら俺、傘立てに『本日、全員外出中』って札を立てる」

Kenja「誰もいない玄関で、傘立てだけが営業してるのか」

Gusha「留守番は任せろって顔でな」

Kenja「だから、傘立てに顔はない」

Gusha「じゃあ、空っぽの傘立てを見て、俺が代わりに誇らしげな顔をしておく」

Kenja「お前が留守番するのか」

Gusha「そう。雨が降ったら、まず俺が傘立ての前に立って、整理券を配る」

Kenja「お前の家の傘は、一本も出発できそうにないな」

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