When clipping nails, there are too many "just one more" moments.

爪切りは「あと一回」が多すぎる

Gusha「爪切りって、切り終わったあとに『もう一回いけるな』って思わせてくるよな」

Kenja「いや、爪はもう切れてるだろ」

Gusha「でもさ、最後の一枚があるんだよ」

Kenja「一枚って何だよ。爪は書類じゃないぞ」

Gusha「ほら、右手の親指切ったあとに、左手の親指を見るだろ」

Kenja「見るな」

Gusha「そしたら左のほうが、ほんのちょっと長い」

Kenja「それは左右で同じ長さにする必要がないからな」

Gusha「でも気になるじゃん」

Kenja「気になるのは分かる。でも、そこから何回も切るのがおかしい」

Gusha「一回切る」

Kenja「うん」

Gusha「見直す」

Kenja「うん」

Gusha「もう一回切る」

Kenja「うん」

Gusha「また見る」

Kenja「うん」

Gusha「ちょっと怖くなる」

Kenja「そこまでいったらやめろ」

A standard metal nail clipper sits on a white bathroom vanity, with a few small clippings scattered around it. The clipper is not closed; the lever is slightly raised, as if it were in the middle of use. The faucet and mirror are faintly visible in the background.

Gusha「爪切りって、最後には判断力を奪ってくるんだよ」

Kenja「道具のせいにするな」

Gusha「最初は『伸びたから切ろう』だけなんだよ」

Kenja「普通だな」

Gusha「でも一個切った瞬間、『他も大丈夫か?』ってなる」

Kenja「確認するのは普通だろ」

Gusha「人差し指を見る」

Kenja「うん」

Gusha「中指を見る」

Kenja「うん」

Gusha「薬指を見る」

Kenja「うん」

Gusha「小指を見る」

Kenja「うん」

Gusha「そして親指に戻る」

Kenja「なんで巡回してんだよ」

Gusha「一周したら、最初の親指がまた気になってくる」

Kenja「それはもう爪切りじゃなくて点検だろ」

Gusha「しかも爪って、切った直後はちょっと信用できない」

Kenja「どういう意味だ?」

Gusha「切った直後は『これでいい』って思うんだけど、五分後くらいに指先を触ると、急に気になる」

Kenja「感覚が変わっただけじゃないか」

Gusha「『さっきの俺、雑だったな』ってなる」

Kenja「さっきの自分を他人みたいに言うな」

Gusha「俺、爪切りのときだけ過去の自分に厳しいんだよ」

Kenja「日常生活でもそのくらい反省しろ」

Gusha「でも爪切りって、途中で終わらせるの難しくない?」

Kenja「難しくない。全部切ったら終わりだ」

Gusha「『全部』ってどこ?」

Kenja「爪が適切な長さになったところだ」

Gusha「適切って誰が決めるんだよ」

Kenja「本人だよ」

Gusha「俺は信用できない」

Kenja「じゃあ誰を信用するんだ」

Gusha「昔の俺」

Kenja「もっと信用できないだろ」

Gusha「いや、昔の俺が切った爪を、今の俺が評価する」

Kenja「評価するな」

Gusha「過去の仕事を現在の俺が監査するんだよ」

Kenja「爪にそんな組織図を持ち込むな」

Gusha「しかも爪切りって、最後の一回が一番危ないんだよ」

Kenja「それは分かる。切りすぎる可能性があるからな」

Gusha「そう。だから俺は『もう一回』と思ったところで止めたい」

Kenja「それならいいじゃないか」

Gusha「でも止めたあと、爪切りを見ると」

Kenja「見ると?」

Gusha「『本当に?』って顔してる」

Kenja「爪切りに顔はない」

Gusha「あるよ。あの金属のところで、ちょっとこっち見てる」

Kenja「見てない」

Gusha「『まだいけますけど』って」

Kenja「言ってない」

Gusha「『ここまで来たなら最後までやりません?』って」

Kenja「営業をかけてくる爪切りなんかない」

Gusha「でも、あの握るところを一回触るとさ」

Kenja「やめろ」

Gusha「カチッて」

Kenja「やめろって」

Gusha「カチッて」

Kenja「音を再現するな」

Gusha「もう一回だけ」

Kenja「それが一番信用できない言葉なんだよ」

Gusha「……じゃあ、今日はここで終わりにするか」

Kenja「それでいい」

Gusha「右手だけ」

Kenja「なんでだよ」

Gusha「左手、まだ見てない」

Kenja「最初からやり直すな」

Gusha「……でも、ちょっとだけ長いんだよな」

Kenja「その『ちょっとだけ』が始まりなんだよ」

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