5分前は余裕なのに、5分後は事件
Gusha「時計って、時間を教えるより、こっちを急かしてくるよな」
Kenja「時計は時間を表示してるだけだろ。急かされてるのはお前の予定だ」
Gusha「でも8時って見た瞬間、俺の中の人が『もう終わりです』って帰り支度する」
Kenja「何が終わったんだよ」
Gusha「朝」
Kenja「8時なら、むしろ始まったばかりだろ」
Gusha「そこが時計の怖いところなんだよ。7時59分までは『まだいける』なのに、8時になった瞬間『間に合わない』になる」
Kenja「その1分で何が変わるんだ」
Gusha「数字」
Kenja「それは変わるな」
Gusha「だから俺、時計を見るときは数字じゃなくて気持ちを見てる」
Kenja「時計で気持ちは見えない」
Gusha「見えるよ。8時なら焦り。8時半なら諦め。9時なら開き直り」
Kenja「お前の感情表現、30分刻みなのか」
Gusha「10時になると急に人生について考え始める」
Kenja「遅刻しただけで人生まで広げるな」
Gusha「でも時計って、数字が増えるほど俺たちの自由を奪ってくるだろ」
Kenja「逆だ。時間を把握できるから予定を立てられる」
Gusha「じゃあ聞くけど、待ち合わせが10時のとき、9時50分の時計って味方?」
Kenja「味方だろ。あと10分あるって分かる」
Gusha「俺には敵に見える」
Kenja「なぜ?」
Gusha「『あと10分しかありません』って顔してる」
Kenja「時計に顔はない」
Gusha「あるだろ。長針と短針でめちゃくちゃ無言の圧をかけてくる」
Kenja「それを言い出したら、カレンダーも圧をかけてくることになるぞ」
Gusha「カレンダーはまだ優しい。日付だから」
Kenja「時計も時刻だろ」
Gusha「時刻は細かすぎるんだよ。カレンダーなら『8月30日です』で済むけど、時計は『13時05分です』って、こっちの今をピンポイントで刺してくる」
Kenja「今まさに13時05分だとしても?」
Gusha「そう。『もう昼過ぎですよ』って」
Kenja「それは事実だ」
Gusha「事実って一番怖いんだよ」

Gusha「じゃあ、お前は時計を見ないほうがいいのか」
Kenja「いや、見たほうがいい。時間を把握しないと予定が崩れる」
Gusha「でも見ると焦る」
Kenja「焦るかどうかはお前の問題だ」
Gusha「じゃあ時計を見ないで、体内時計で生きる」
Kenja「お前の体内時計、たぶん壊れてるぞ」
Gusha「なんで分かる」
Kenja「前に昼寝から起きて、『朝だと思った』って言ってただろ」
Gusha「あれは体内時計じゃなくて、部屋が暗かっただけ」
Kenja「原因を外に出すな」
Gusha「朝なんか特にそうだぞ。目覚まし止めて、時計見て、『あと5分』って寝る」
Kenja「典型的なスヌーズだな」
Gusha「5分後にまた見る」
Kenja「うん」
Gusha「『あと5分』」
Kenja「それは5分じゃなくて、もう一回寝るための合言葉だろ」
Gusha「そうやって何回か繰り返してると、最初の5分がどこに行ったのか分からなくなる」
Kenja「時間はどこにも行ってない。お前が寝てるだけだ」
Gusha「じゃあ時計って、時間を保存してる道具じゃないんだな」
Kenja「当たり前だ」
Gusha「ずっと同じところに置いてあるのに、時間だけ勝手に減っていく」
Kenja「減ってるんじゃない。進んでるんだ」
Gusha「それ、時計からしたらどっちでもいいんじゃないか」
Kenja「……まあ、時計は何も気にしてないだろうな」
Gusha「そうなんだよ」
Kenja「何が?」
Gusha「こっちが急いでても、遅れてても、5分だけ寝ようとしてても、時計はずっと同じ顔してる」
Kenja「だから時計なんだろ」
Gusha「じゃあ俺も、時計みたいになろうかな」
Kenja「何をするんだ」
Gusha「明日から予定に遅れても、何も気にせず針だけ動かす」
Kenja「それは時計じゃなくて、ただの遅刻だ」
Gusha「……でも、時計にはちょっとなりたい」
Kenja「なぜ?」
Gusha「時間を見てるだけで、怒られないから」
Kenja「……それは少し分かる」
Gusha「ほら、今ちょっと時計側だった」
Kenja「気のせいだ」
Gusha「じゃあ次に見るとき、俺らどっち側かな」
Kenja「……まあ、時間だけは進んでるだろ」
Gusha「……じゃあ、あと5分だけ時計見ないでいよう」
Kenja「……それ、明日の朝まで寝るやつだろ」
境目だけが覚えている シリーズ
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